●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの新シリーズ1回め


シリーズ リポーター奮闘記

即、戦力


20年以上も前だろうか。テレビ・新聞・折り込み広告に加え、生活情報誌と称して視覚

に訴えるというよりも広告文で宣伝する記事型広告が流行した。

私は結婚して専業主婦であった。ふと目に止まったフリーペーパーの小さな囲みのリポー

ター募集に、私のやりたいことはこれだ!とたちまち心が動いた。すぐ応募し、作文と面

接で即決したのであった。総務の人から「はい、あなたの名刺」と渡された箱入り名刺を

みると、大きく書かれた媒体誌の名前の下に肩書きとしてリポーター、ライターとあった。

まったくの未経験者の私なのに、小さな会社で余裕がないのか人手不足なのか研修期間な

どはなく、即戦力として名刺を持たされ、すぐ仕事に駆り出された。営業の人が契約して

きた広告主のところへ行き話を聞いて、ちょうちん記事を書くのである。

初めての仕事はコンタクトレンズの広告記事であった。スペースはタブロイド版の左半分

の3段組。私はコンタクトレンズの手軽さ、心地よさに加えて店のアフターサービスや信

頼性を盛り込み、記事のレイアウトまでした。広告主は片目のイラストを入れてくれ、と

いう。(げっ、趣味わりぃ)と思ったが、私は何も言わなかった。結局気味悪い片目だけ

が目立つ、箸にも棒にもかからないような内容の広告になった。

やはり一緒に採用された女性は青学の仏文科出身の才媛で、私はきっと彼女の方にたくさ

んの仕事が回るだろうな、とちょっとたじろいだ。そして彼女の初仕事は占師を取材する

もので、できあがった記事には難解な言葉が連なっていた。

その後二人は社長室に呼ばれ、「広告文を書くにはいろんな事を面白がったり、こだわっ

たり、疑問をもったり、憂えたりする資質が大事なんだ。とにかく書く対象物に惚れ込め。

惚れ込めば躍るような言葉がでてくるもんだ」と諭された。

これが私の文章を書く原点となった。


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