●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの快調シリーズ15回めです。


シリーズ 世にも短い物語

ポルノ女優

若さと美しさには価値がある。

18歳の彼女にはその両方が備わっていた。彼女は美しさを武器にして女優になろうと

夢みた。まず、新聞広告に載っていた俳優・タレント養成所に入学した。入学といって

も試験があるわけではなく、月謝ばかりがやたらと高く授業はおざなりであった。なん

とかテレビに通行人としてでもでられれば、めっけものといえよう。それをチャンスと

すれば後は本人の努力と熱意である。

ある日、街を歩いていると見知らぬ男から声をかけられた。モデルになってくれないか、

という。差し出された名刺を見ると、肩書きに有名ファッション雑誌の名があった。彼

女は一にも二にもなく承諾して、撮影日の日を待った。一流雑誌社からのモデル依頼。

もしかしたらそれがチャンスとなってモデルの道が開けるかもしれないと思うと胸が躍

った。

彼女は女優でなくてもよかったのである。ただこの美しさを世の中で認められ、有名に

なりたい、その一点だったのだ。

撮影当日、流行の服を着せられ、何枚か写真を写されて1時間もかからず終わった。支

給されたのは交通費だけ。しかも、そのキャプションは「春の服、読者モデル○○さん

の場合」たったそれだけだった。

大手ファッション雑誌の敷居は高かった。彼女はおおいに不満であった。ただ、なぐさ

めは自分が街を歩いていれば、スカウトされるかもしれないと気がついたことである。

それからは少し派手で目立つ格好をして渋谷、新宿など繁華街を闊歩した。

するとまたある日、サングラスの男から声をかけられた。名刺には○○芸能プロダクシ

ョンの肩書きがある。裸になる勇気があるかい? と聞く。話からポルノ映画だと察し

たが、彼女は断らなかった。彼女の致命的な欠点は世間知らずと自信過剰と有名志向で

あった。

こうして彼女はポルノ業界に入ったが、ポルノ女優の回転は速い。半年で飽きられ、捨

てられた。

若さと美しさには価値がある。しかし、使い方を誤ると不幸になるということだ。


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