●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、冷やし中華について、熱く語ります。


甘酸っぱい

初恋の味、青春の味とくれば“甘酸っぱい”が相場である。私は甘酸っぱい味がだい

すき。

とはいっても初恋も青春もとっくに卒業して、遠くになりにけりの年代になってしま

ったので、ロマンチックな感傷は脇に置いておく。身もふたもないが正真正銘の甘酸

っぱい味の代表的食べ物、冷やし中華がお気に入りなのである。

暑かった今年の夏、のどごしのよさで麺類をよく食べた。伝統の味、そーめんも活躍

したけど、なんたって見た目の華やかさ、栄養バランスの良さで冷やし中華に軍配が

あがる。

きゅうりに錦糸卵、ハムの細切り、茹でたモヤシ、思いつくままにわかめや紅しょう

がなどもトッピングしてカラフルに仕立てると、暑さでボーとした頭にどぎつい原色

が「ワッ、キレイ!」とばかりに刺激を与え、さらに冷たくした甘酸っぱいスープが

舌にきりっとからんで「うーん、お主なかなかやるじゃん!」と食がすすむ。つい食

べ過ぎて「余は満足じゃ」とお腹をさする羽目となる。

考えてみれば冷やし中華とは不思議な食べ物である。国籍は? 中華って名がつくの

だから中国からきてるのだろうけれど、横浜中華街へ行ってもめったに冷やし中華の

メニューを見ない。正当な扱いを受けていないらしい。6月頃になると、ようやく街

中の中華料理店やラーメン屋さんの店先に「冷やし中華始めました」と張り紙が貼ら

れて「おー、いよいよ冷やし中華の季節だわい」と気がつく。いまや季節感の薄れた

日本にあって、愚直に夏の食べ物としての存在感を堅持してるのだ。

それにしてもラーメンにうるさい日本人なのに冷やし中華には極めて冷たい。正道も

なければ邪道もない。つまりお座なりなのだ。冷やし中華ファンとしてはおおいに不

満である。どこかに行列のできる冷やし中華屋はないのだろうか。


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