●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シティギャル・もどきさんの好評新シリーズ3回めです。
〈シリーズ・銀座の街角で〉
画廊ないしょ話
ときどき銀座で個展開催の案内状をもらう。“銀座○○画廊”というだけで何か作
品も作者もピカピカ輝いて箔がついているような気になるものだ。
(銀座で個展か、いいなあ。うらやましいなあ。私にも実力と財力とがあったらな
あ)と心底思う。
案内状の地図は大抵アバウトで迷ってしまうのだが銀ブラを楽しんだと思えば気に
ならない。訪れる者をそういう気にさせるのも銀座のカリスマ性かも・・・
一歩会場に足を踏み入れると作者の交友や年季が知れる。独断だが、むせかえるよ
うな花の香りの中で顔を上気させて応対に余念のないのが初心者で、花も少なく落
ち着いた雰囲気でやたらと言葉をかけてこないのが年季者のように思う。
出かけていってたまたま当事者が会場に詰めているときなど美術談義を聞くのも楽
しい。
例えば、展示作品とは関係のないこんな裏話を聞くこともある。
「なにしろ銀座といえば画廊のメッカでしょ。銀座で個展は夢だったのよ。会場費
結構な値段よ。約30万円。親の遺産がころがりこんだので思い切ったの。お陰さ
まで大盛況だけど人と会うのって疲れるわねえ」
「昨日はオープニングパーティがあってね。友達が友達を呼んでどんちゃん騒ぎで
今日は二日酔いさ。どこのどの者とも知れない人までまぎれこんで飲んで食ってい
くんだ。銀座にはこうしたただ食い常習者が横行するそうだよ」
「画家ってえのはね、これだけで食べていくのはむずかしいね。たいてい学校の絵
の教師をしながらとか、他に仕事しながらとかで生活を安定させている。あれは邪
道だね。僕は自慢じゃないけど絵一筋。それが本当のプロってえもんだ。ま、カミ
さんの援助があるからだけど…」
「あのね、芸術は美の追求っていうけど、いまでは綺麗さより意外性ね」
どれもこれも「ふーん…」と聞き入るばかり。
画廊でのないしょ話は勉強になります。