●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シティギャル・もどきさんの好評新シリーズ8回めです。


シリーズ・銀座の街角で   

 お婆さん

昼の芝居がはねて東銀座から地下鉄日比谷線に乗る。どうやら同じような芝居帰り

の3人のお婆さんが並んで座った。私はその隣に座っていた。

するとお行儀よく座った3人のお婆さんがまもなく口ゲンカを始めたではないか。

私は思わず聞き耳を立てた。

「あんたたち、冷たいわね。ちょっと遅れただけなのにあたしを待っててくれない

なんて」

「あら、10分待ってたわよ。立って待ってるもんだから疲れるじゃないの。それぞ

れ切符もってんだから劇場に入れるし、と思って先へ行ったのよ」

「すぐよ。そのあと私が行ったのは。もう少し待っててくれてもいいのに…二人と

もまだなのかと思って私の方が待っちゃったじゃないの」

遅れたお婆さんは口をとんがらかす。

「常識でわかるじゃない。あんたが遅れたのっ!」

二人のおばあさんはなかなか手厳しい。

10分かあ、微妙な時間ではある、と私は思った。

「だってさ、あたしが一番遠いのよ。その辺のところを思いやって待つべきよ」

「遅れてきてそんなに威張ることないじゃないの」

ちょっと険悪な雰囲気。

「まあ、いいじゃないの。結局、お芝居はみれたんだし、こうして3人一緒に帰

れるんだから」

ひとりのお婆さんのとりなしでケンカはちょん。ホッとした。それからがまたおも

しろかった。

やっぱり、携帯電話をもつべきかしらねえ」

「あら、ウチのおじいさん持ってるけど、1か月に1〜2度しか使ってないわよ。

かかってもこない携帯をじっと見てるの。いじましいったらありゃしない」

3人が声を揃えて笑った。

ウフフ、おもしろいお婆さんたち…言いたいことをぽんぽん言って、後腐れなく仲

直りして、ずっとこうして付き合ってきたんだろうなと、ちょっとうらやましく思

った。


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