●新連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、取材データからの新シリーズ8回目です。
シリーズ問わず語り●味噌職人
若いって? ええ、僕まだ34歳なんです。大学を出ていったんは会社に勤めました
が、親父の死で糀屋の4代目を継ぎました。つまり脱サラなんでまだ経験は浅いんで
す。でも門前の小僧なんとやらで大体の味噌づくりの工程は知っていましたので……
目下近所に住む叔父や母からさらなる特訓中です。
糀(コウジ)というのは字を見てわかるように蒸米にコウジカビがはえてそのカビの
胞子が表面に花のように現れる状態からきてるんですね。
味噌を作るには、米をふかす、さます、糀菌をつける、塩をまぜる、室(むろ)に入
れる、2昼夜ねかせて発酵熟成する、ざっとこんな工程なのですが、一番難しいのが
温度管理。毎日が気が抜けません。そして味噌の良し悪しは糀で決まるんです。
昔は味噌はどこの家でも自家製だったんですよ。自分ちで作った味噌が1番うまいと
そこから手前味噌という言葉が生まれたわけなんですが、味噌は糀が命。もともとは
その糀を作って売っていたのがウチの家業だったんです。それが味噌は買うものとな
って大手が工場生産するようになってしまいました。
いやー、僕がこの仕事を継ぐことになったときはそりゃ不安でしたよ。味噌の消費が
落ち込む一方で小さな手作り味噌屋がどうやって販路を広げるか、材料の良い米や大
豆の確保などいろいろ問題がありましてね、果たしてやっていけるのか悩みました。
ところがそんな危惧はすぐ解消しましたね。おいしい味噌を求める人の間に口コミで
伝わり、さらに本物志向と手作りブームに乗って順調に売り上げを伸ばしています。
インターネット販売が主なんですが、最近は味噌つくりの講習会なんかも開いて本物
の味を広めることに努めています。なかなか人気なんですよ。やっぱりいいものはい
い。あっ、これって手前味噌ですかね。
小学校やボーイスカウトなどへも出張講習するんですが、驚いたことに子供の味覚が
一番鋭いんですね。そこで思うんです。今、家庭の食の崩壊が進んでいるようですが、
やっぱり子供の食育って大事なんじゃないかって。ぜひまだ素直な味覚を持っている
子供に伝統の味を伝えておくべきですよ。