●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの外国人シリーズの4回目、前回の話の続きです。
シリーズ 外国人交遊録●スリッパ
そのうち、アメリカンネイビーの奥さん先生・リンダとは先生宅へいったり、我が家にや
ってきたり、ドライブしたり、家族ぐるみで付き合うようになった。
主婦・私が主婦・リンダと共感しあったことはたくさんあった。家計のやりくり、子育て
の悩み、近所付き合い、夫の愚痴など国籍は違っても、なーんだおんなじじゃないか!と
思うことが度々あった。
しかし、異国日本で暮らすリンダにとってカルチャーショックもあったのだろう。「日本
人ッテナゼ・・・ナノ?」
という質問をたくさん浴びせられた。
初めて我が家へきたときのことである。当然玄関で靴を脱いでもらう。スリッパを履いて
廊下を歩き、和室がいいだろうと畳の部屋へ通すとそのまま入ろうとする。あわててスト
ップをかける。スリッパを脱ぐよう言うのだが、ナゼ?と聞かれても合理的な説明ができ
ない。ただ習慣的に和室ではスリッパは履かないと答えておいた。しばらくしてトイレへ。
ここでも混乱があった。入るときはスリッパをトイレ用に履き替えてもらわなければなら
ない。
「スリッパ!スリッパ!ナンデナノ?」
リンダは呆れかえった。
スリッパをこんなに使いわける民族なんて見たことない。もともとスリッパは寝室用のプ
ライベートな履物なのに、日本人はたくさんのスリッパを持って、スリッパメーカーを儲
けさせていると言った。そしてリンダは、清潔で繊細で神経質な日本人というレッテルを
貼った。外国人には靴を脱ぐことなんて想定外なので,穴のあいた靴下を平気で履いている
人もいるそうな。
そこでリンダは“ナゼ、日本人ハコレホドスリッパニコダワルノカ?”を考えたそうだ。
その答えは“リラックス”だという。
靴を脱いだときの解放感はたまらない。一度この経験をすると真似たくなるという。リン
ダにいわせると日本人はリラックスの演出が上手だという。例えば置炬燵、すだれ、ゆか
た、赤子のおんぶなどみんなリラックスだという。
その後、リンダの家でもこうしたものをとりいれたそうだ。私は美しく刈った芝生の中に
建つクリーム色の洋館の窓に下げられたすだれやフロアライトが輝くリビングの置炬燵を
想像してクスリと笑った。