●新連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、取材データからの新シリーズ2回目です。
シリーズ問わず語り●竹細工職人
いやー、こんなむさくるしい仕事場ですんませんね。ウチのカカアがもっと整頓しろと
うるさいんですがね、この状態があっしには一番居心地がいいんですわ。大きいものは
天井からぶらさげ、小さなものは回りに置いて、いつも自分の作ったものに囲まれてい
るのはいい気分でねー。お陰で実際の作業場は真ん中に座った1メートル四方だけにな
っちまった。でも座ったまま手を伸ばせばなんでも道具に届くんでかえって便利なもん
よ。(笑い)
あっしは自分でいうのもなんですが、子供の頃から手先が器用でね。百姓やるよりも何
かを作っているほうが好きだったんですよ。百姓は長男が継いで、次男のあっしは身近
に竹細工職人を見てたんで弟子入りして職人になろうと決めたんだよ。
昔、竹製品は大きな背負い籠から小さな盆ざるまで生活に欠かせない道具だったから注
文もたくさんありましたわ。農家の裏には必ず竹林があってね、竹製品が必要になると
竹細工職人を家に呼んで、屋敷裏の自前の竹で土間で職人に作らせたんだね。だから職
人は今みたいに店なんか構えてないで農家を渡り歩いていたんですよ。1日じゃ終わら
ず時には2泊3日とか3泊4日とかなったりしてね。なかには呼ばれた家のかみさんと
ねんごろになっちまってさ。おおらかなもんさ。ハハハ。ま、むかしむかしの話だけど
ね。
今じゃ生活用品がみなプラスチックになってしまい味気ないねえ。竹の出番がなくなっ
てしまったから竹林もなくなるし、職人はどんどんやめちまうし、後継者もいないんだ
ぜ。うちの息子だってサラリーマンさ。
竹は手に入りやすく、まっすぐに伸び、細くすればしなやかで細工がしやすいのが特徴
で、青い竹は段々白っぽくなり使い込むほどに茶色になって味がでてくるんだ。竹とひ
とくちにいっても硬いのや柔らかいのがあって、その特徴をいかして今度は何を作ろう
かというときが一番楽しいよ。
この間ね、ある主婦グループから趣味で竹細工をやりたいから講師にならないかってい
ってきたんだけど、あっしゃ、先生って柄じゃねえから断ったよ。この手が動く限り作
り手でいたいんでね。