●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
大人気もどきさんの新シリーズ、ネコ話、のはじまりはじまり。
シリーズ/人生ときどき猫●黒猫1
私が小学生3年生の頃だったと思う。友達とふざけあいながら学校から帰る途中、黒猫が
目の前を小走りに道を横切った。すると隣を歩いていた友達が立ち止まって「あっ、縁起
ワリイ!」
と顔をしかめた。さらに
「ヤなもの見ちゃった!ヤなもの見ちゃった」
節をつけて言いながら、駆け出していってしまった。えっ、黒猫を見ると縁起が悪いの?
私はキョトンとした。そんなこと初めて聞いた。なんで? ウチにも黒猫がいるんだよ
お、それに、もしかして今のはウチの猫かも…という思いがしてドキンとした。
ウチの黒猫はどんないきさつで飼うようになったのか記憶にないが、たぶん捨て猫かなん
かを誰かが拾ってきたのだと思う。ちょっとおしゃれにクロッキーと呼ばれていた。全身
真っ黒でビロードのように艶やかであった。ウチは印刷屋をしていたので職人がたくさん
働いており、クロッキーはそうした職人からも可愛がられ触られているので、結果的に毛
並みの手入れになっていた。目は金色で大きく見開かれると吸い込まれそうに神秘的であ
った。なかなかのハンサム顔で美しい猫だと思っていた。
家に帰って私はさっそく父親のところへいって、
「黒猫って縁起が悪いの?」
と友達のいったことを話すと
「縁起が悪いもんか、黒字につながる商売繁盛の元だよ」
と笑った。黒字赤字といってもその頃の私にはわからなかったが、商売繁盛の意味はわか
るので、ふーん、と安心した。当時の父にとって多くの職人を抱え仕事も順調、保護司の
仕事もこなし、人生の絶頂期だったのかもしれなかった。何事もいい方に向かっていると
信じていたに違いない。しかし、その後父の印刷会社は倒産の憂き目をみたのだから、黒
猫が黒字の元というのはうそっぱっちだった。だからといって黒猫は縁起悪いわけでもな
い。いやむしろ、倒産した時期にクロッキーが姿を消してしまい(たぶん死んだのだと思
う)ツキが落ちてしまったと考えよう。黒猫が死んだから黒字から赤字に・・・小学時代
をともに過ごした愛しい猫だもの、そう思いたいではないか。
黒猫は真っ黒で異様であるだけに、気持ち悪いと言う人と個性的で魅力的だという人にわ
かれるような気がする。(つづく)