●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、恋愛小説について、ちょっと分類試みてます。


別れの言葉

以前、林真理子の講演を聞きにいったことがある。

その中で彼女はこんなことを話していた。渡辺淳一と対談した際、小説の究極のテーマ

は恋愛小説だ、ということですっかり意気投合したというのである。私個人としてはそ

れには異論があるが、それを聞いてやはり恋愛小説の名手同士ならではの小説哲学なの

だろうと思った。

確かに小説とは人間を書くことなので恋愛は一つの感情の発露ではある。

そこで樋口一葉を尊敬し、小説家に憧れ、ペンネームにぬけぬけと「一葉もどき」と称

する私めは愚にもつかぬことを考えた。

恋愛小説といえば別れはつきもの。(恋愛をして何の葛藤もなくめでたくハッピーエン

ドでは小説にもならない)この別れのシーンを分析せねばならぬと。(書くネタに事欠

いたとはいえ、まったく暇なこって…)

男から女に別れを切り出すシーン。

その一、演歌調。

男「そろそろ俺たちに秋風が吹き始めたようだね」

女「(声を落として)そうなの…やっぱりあなたにいい人できたのね。いいわ、冷たい

木枯らしが吹く前に別れてあげる。私はきっとあなたの夢を見るけれど追いかけなんか

しないわ」

その二、現代風。

男「そろそろ僕たちの関係にピリオドを打たないか」

女「あなたって本当に嘘が言えない人なのね。いいわ、だけど他人になってもいい友達

でいましょうね」

その三、復古調

男「そろそろ俺たち年貢の納めどきかも…」

女「あら、私たちってそんな関係だったの? 大体年貢の納めどきっていうのは、悪事

をして足を洗うときにいう言葉よ。それをいうならそろそろ潮時かなっていってほしい

わ。その方が少なくとも今まで満ち足りた時間だったという実感があるもの。まったく

あなたって情感のない人ね」

想像するにこれからが修羅場となるのだろう。捨てられかけた女は失われた愛を取り戻

そうと、すねたり、逆らったり、訴えったり、愚痴ったり、哀願したり、強がったり…

女の武器を最大限に発揮する。小説ならばここからが醍醐味なのかもしれない。

悲しいかな、一葉もどきはあくまでももどきなのであって、もう私の手には負えないの

であった。


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