●新連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、旅先で夫とギャグを張り合ってます。
中国語
夫が中国語を習っている。その動機はというとはなはだ軽薄で、麻雀が得意だったの
で中国語に少しは馴染みがあったから御しやすい、漢字なのでおおよその意味がわか
りそうだ、その程度のことであった。
私が朝「おはよう」というと、夫は「ニーハオ」という。なにかしてあげると、「シ
ェイシェイ」である。別に我が家に中国語が飛び交っているわけではないが、ときど
き中国語のラジオ講座がかかったりCDが流れたりする程度だ。
とにかく発音が難しいと夫は四苦八苦している。
中国語は鼻に抜ける音が多く、総じてトーンが高い。以前私は京劇を観たことがある
が、あまりの甲高い声になにか落ち着かなかったのを覚えている。よく中国をしゃべ
っていると声が高くなり、英語をしゃべっていると声が低くなり、フランス語を話し
ていると口がとんがるといわれる。なんとなくわかるような気がする。言語によって
声の質や表情が独特のものにかわってくるものだ。
最近トルコへ旅行したときのことだった。寄り合い所帯のツアーだったので、初めの
ディナーのとき、自己紹介をしあった。夫婦者は二人一緒に立ってまとめてしたのだ
が、我々の番になって、夫は
「○○と申します。中国語を学んでおり、H氏(このツアーの企画者)とは中国語講
座の友人なのでその縁でこのツアーに参加しました。隣にいるのは、私の妻で中国語
でアイレン、漢字では愛人と書きます。愛しても愛してなくても愛人。いわば配偶者
という意味で妻にも夫にも使います」
私は心の中でトルコへ来てなにも中国語の講釈をしなくても…と心の中でチッと舌打
ちした。夫の自己紹介が終わって一礼して二人揃って席に座るところだが、私は思わ
ず、「そうはいっても私は日本では一応本妻となっております」
といってみんなの笑いをとった。