●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、女性小説ドラマに感じ入っています。


話題の「魂萌え」

友人から電話がかかってきた。

「ねえ、『魂萌え』見た?」

「うん、見た、見た。他人事じゃないわね」

最近、NHKテレビで放映されたドラマ「魂萌え」のことである。

ストーリーは平凡な専業主婦が夫の死をきっかけに、夫の愛人の出現、相続問題などさ

まざまな出来事にぶつかり、世の荒波に揉まれてたくまくしく成長していく、というも

の。桐野夏生原作の同名の小説のテレビ化である。

私は小説でも読み、テレビも見た。桐野作品は「OUT」が最初だが、猟奇的な物語で、

ちょっと身が引けた。だからこの作家がこのような作品を書くとは思いもよらなかった。

「魂萌え」は新聞小説だったので、読んでいるうちに面白くなって新聞が来ると真っ先

に読んでいた。

友人も感動したのだろう。電話でドラマの話で大いに盛り上がった。

「一見何事もなく平凡な家庭でもなんか問題を抱えているもんね」「あの主人公は夫を

愛していなかったんじゃないの。だって妙に物分りがいいじゃないの」

そして最後に二人のだした結論は、

「女って結局狭い世界に住んでいるのね。どんな夫でもいるだけで世間の防波堤になっ

ているんだわ」

「でもそれに甘んじているとしっぺ返しがくるのよ。最後に頼れるのは自分自身だけ。

強くならなくちゃあ…」

ということだった。

私は友人には言わなかったが、どんな女にも心の中に鬼が棲んでいるのだと思う。なに

かのきっかけで鬼は姿をあらわし、まるで身を揉むように暴れて残酷な世界にも或いは

慈悲の世界にもひきずりこむ。

女の一生は体の変化とともに姿を変えていくのではないか。

生硬な少女から、柔らかな大人の女へ、そして頑なな老いへと…

変化することはとにかく苦しい。主人公のように中年女が枯れていくのだって産みの苦

しみに近いものがあるのだろう。女はなんとも生き難いものだと思った。

「魂萌え」はその状況を見事に描いていて、欲望むきだしの若いときの鬼、中年の思い

がけないエロスの鬼、エゴまるだしの老年の鬼を炙り出して多くの女性の共感を得た小

説だと思った。


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