●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回は、おじいさんとおばあさんについての、調査と考察。



おじいさんPART1

私は腰痛持ちである。で、スポーツクラブに通っている。昼間なので当然中高年が多い。

そこで目に付く光景なのだが、おばさん、おばあさんたち(つまり女性たち)はよくお

しゃべりをする。ジャグジープールで隣になれば見知らぬ人でも話しかけ、水中ウォー

キングでも仲間と前後で話しながら歩いていたり、とても楽しそうだ。女性にとってお

しゃべりは格好のストレス解消なのだ。

そこへ行くと男性は黙々とトレーニングに励んでいる。むっつりとまるで仕事をこなす

がごとく難しい顔でやっている。やってくるのも一人。引きあげていくときも一人。寂

しいなどと少しも思わず、ただひたすら老後が元気でいられるようにノルマを果たして

帰っていく姿は健気にもみえる。

日常の外出でもおばあさんたちは2〜3人がつるんで出かけることが多いのに、おじいさ

んは一人っきりというのを多く見かける。ラフな格好でカメラなんかぶらさげているか

ら、用事というわけではなく散歩とか、小旅行のようだ。

そこで私は仲良しの自称おばあさんに

「孤独に強いおじいさんってえらいと思わない? 一人で行動できるのは若いときから

訓練されているからかしら……」

と切り出してみた。彼女はちょっととまどった表情をしてから、

「とんでもない。おじいさんなんて家の中にいても用がないからぶらぶらしているだけ

よ。おばあさんは家でまだ現役で働いてるわ。

おじいさんには友達ってものがないだけよ」

と、いささか機嫌が悪くなった。確かにおばあさんの立場も考えずにおじいさんはえら

い、と言ったのはうかつだったが、私は何事もつるんで行動する女と、一人で行動する

男との微妙な違いを話し合うつもりだったのに話がうまくかみ合わない。

「このごろのおばあさんってとても元気でよく旅行へ行くでしょう。でも、一人旅って

みかけないわよね」

私はしつこく彼女に言ってみる。

「それは、若いときから家に閉じ込められていたから、一人で出かけられないのは当た

り前よ。それに一昔前は女一人の客はなにかワケありじゃないかって旅館に泊めてもも

らえなかったのよ」

彼女はますますご機嫌ななめになって口をとがらせる。私はちょっと調子を変えて、

「たとえば昼どきにね、小粋な蕎麦屋でおじいさんが一人、蕎麦と田楽とお酒を楽しん

でいるなんて、ちょっと絵になるわねえ。女にはそれはできないわねえ…」

彼女の顔を窺う。

「男にできて、女にできないことなんかないわよ。あたしゃ蕎麦も田楽も年中うちで作

ってるから外じゃ食べないけど、ちゃんとしたフランス料理店なら一人で行って食べて

みたいわ」

と、一歩も退こうとしないのであった。

そうか、この蕎麦屋とフランス料理店の違いがおじいさんとおばあさんの違いかもしれ

ない。それにしてもおじいさんは本当に一人の方が楽しいのだろうか。或いは楽しんで

いるとみせるところにおじいさんの見栄が隠されているのではないか。


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