今週の雑感(昔のもありの)              文はさぬがゆたか


ソノ世界的イラストレータ・サニーはココアメンバーですが、
ふだんのアート作業を栃木でやっていて、そこからの田舎だよりです。
感動もあり、そーでもないのもあり、で、謙虚にタイトルは雑感のまま。



『 少 年 日 記 』

昔 昔の うんと昔。

あたり一面畑や里山だらけの片田舎に

少年は住んでおったとな。

イガグリ頭の鼻ったれで、どうにもこうにも

かっこうが悪く、いつも自転車を三角乗りしていた。

今日もあぜ道で止まっては、カマと篭を荷台からおろし

せっせと草を刈っている。

それからキーコーキーコーと帰っては、今度は貝殻をトンカチで

砕き粉にし米ぬかやとうもろこしと混ぜる。それにさきほどの草も

刻み入れる。

ト〜ト〜ト〜と声を出すとニワトリが庭隅から寄ってくる。

そう、少年はいつも学校から帰ってくると、いつもそうやって

エサをやるんだわ。ニワトリはそんなわけで毎日たくさん卵を

生んでくれる。まわりがザラザラした温っかいやつだよ。

友達んとこからもらってきたヒナニ羽がいつのまにかたくさんに増えた。

21日目になる明日にはまたヒヨコが誕生するから忙しいん。

早産もなく21日目なのがなんでなのか少年は知らないけど見事だ。

学校が終わったらまっすぐ帰ってこなくちゃいけない。

母さんニワトリがお腹に抱えている卵はすごくあったかい。

熱いくらいだ。でも慣れていないと嘴で突かれるんだって。

コツコツと殻をやぶってヒナが生まれる瞬間はいつもいつも不思議で

あつぼったい瞼で濡れた羽根で転がり誕生した時は、イガグリ頭も

感動で一杯になる。

そうやって日が落ちてもニワトリ小屋ん中で過ごしているから

少年は勉強そっちのけだった。



それから、ずう〜っと日が流れピーピー可愛いかったヒヨコ達も

大きくなってくると一番嫌な頃になるんだ。

めんどりとおんどりの違いが出てくる。トサカが大きくなり出したのが

おんどりで、何羽も飼えないし玉子を生まないから手放さなくちゃいけない。

母ちゃんが嘆く頃、そう売りにいくんだ。

いつもの自転車の荷台に鳥カゴを載せ、キーコーキーコー隣町。

あのヒヨコが売られる。肉になってしまう。

わずかなお金をもらい、さっさと鶏肉工場から逃げるんだけど

涙が止まらないので、自転車をおもいきり飛ばす。

イガグリ頭ん中がおかしいんだ。


少年んちにはニワトリの他にウサギやハトもいたし、犬も猫もいた。

もっと昔には山羊もいたけど、あまり覚えていない。

ある日、家の前のバスの停留所近くで子犬が車に轢かれた。

まだ轢かれたばっかりで、顔がゆがんだままキュ〜ッと鳴いていて

やがて死んだ。少年はオイオイ泣きながら家の裏庭に埋めた。

なんでなんでも死んじゃうんだろって、いつも悲しくなったけど

それでも動物が好きだった。 


それからまたず〜っと日が流れたある日、ネットニュースで流れた鶏

インフルエンザの凄まじく悲しいニワトリの環境の映像をじっくり

観ちゃってね、せめていい人達の中で育ってくれよ、と思ったんだ。

そのイガグリ頭の少年は、大きくなってからもしばらく生玉子が苦手

だったけど、しっかり鶏肉も食べられるようになっちゃった。

それからこうやって思い出しながらメールも書いているんだ。

そんなわけで、今もやっぱり犬と猫と過ごしているんだけど、

何年か前に死んでしまったワン君ゲンキと泣き虫インコのキー坊のお墓を

きれいに掃除し、水と好物のごはんを捧げたんだとさ。


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