●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回は、ひとづきあいの視野がひとつ広がった、って話。



男と女の新しい関係

日経新聞の夕刊に「プロムナード」というコラムがあって、日替わりで文化人が自由

に書いている。ほとんど日常の出来事や旅行記など身辺雑記が多いのだが、その書き

手の一人に作家・絲山秋子氏がいる。読んでいてすごくさっぱりした感じの人だなあ、

若いのだろうか、どんな経歴の人だろうか、なんてあれこれ想像していたら、芥川賞

をとったではないか。早速文芸春秋を買ってきて受賞作「沖で待つ」を読んだ。

友人でもなく、恋人でもなく、同僚。その関係がとても魅力的に描かれている。世の

中、男と女しか存在しないのだから男女が仲良くなったって必ずしも恋愛関係ばかり

があるわけではない。こんな関係もアリでステキだなあと思った。

でも誰でもがなれるわけではない。お互いに距離感を保てる能力があって共有する連

帯感があり、なによりも信頼できる間柄でなくてはならない。

例えば、人の素振りでわかることがある。口に出してはいわないけれど、あ、この人

はきっとこう言って欲しいのだな、或いは、こうして欲しいのだな、と察することが

ある。それはねぎらいだったり、激励だったり、代行することだったりする。そんな

勘が働いて応えられるかどうかはわかりあえる仲から生まれる。友情と違うのは共通

の目的があることだ。だから相手の求めることが自分の利益にもつながるというクー

ルな関係でもある。

対等だからお世辞もへりくだりもない。あるのは暗黙のうちに培われた信頼と連帯感。

寅さんのセリフではないが、「それを言っちゃあおしまいよ」であって、余計な言葉

をいえば誤解を招いて通俗的な男女の仲になってしまいかねない。その距離感が難し

い。

こんな関係が持てる相手がいたら人生豊かに送れそう。この小説の男の方は思いがけ

ない事故で亡くなってしまうのだが、結婚相手よりも主人公の同僚の方により心を開

いていたような気がする。

女は男をたて男は女を守る、という古い固定観念を破ったこんな新しい関係は仕事で

対等に働き、支えあう間柄であるとか、または仕事でなくても共通体験があって共に

持ちつ持たれつの間柄なら可能かもしれない。

きっとこの小説は絲山氏ご自身の体験から生まれた小説なのだろう。

私はこの小説が生まれた背景に一昔前に女性の総合職ができて高い職業意識が育って

実を結び、ようやく自立した覚めた感覚の女性が誕生してきたことがあると思う。大

げさにいえば、こうした新しい関係は日本が成熟した社会になった証ではないだろう

か。


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