●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回はトルコ冒険ツアーの2、無骨な石づくりの家のぬくもりについて。



トルコ10日間旅行記2

 ―はるばるカッパドキア―

偉大なるアラーの神のお助けか、聖なるキリストのご加護か、とにかく元気になった。

延々とバスに揺られながら奇岩で有名なカッパドキア地方に向かう。相変わらず突き抜

けるような透明な青空と人家のない荒涼とした乾燥した大地が続く。


途中3本のきのこエリンギにような形をした岩を見て、並んでいるテントのみやげもの

屋をひやかした。余程日本人観光客が多いのか片言の日本語で呼び込んでいる。「見る

だけタダよ」の言葉の連発には笑ってしまった。以後我々の合言葉のようになって楽し

んだ。


はずれに骨董屋が一軒ありアラジンのランプみたいのや水差しや剣などが埃だらけで無

造作に並んでいる。言葉は通じないが私がワーとかヘエーとか興味津々なので、彫りの

深いヒゲの主人が電卓片手にぴたりと傍によって離れない。私が品物を手に取るたびに

すばやく電卓に数字を入れる。顔を横に振るとたちまち数字を下げた。それでも思い切

りの悪い私は迷いに迷う。ついに主人は私に電卓を預け、言い値を示せと指差す。私が

数字を入れるとちょっと間を置いて彼は大きく頷いた。双方に安堵の笑みがこぼれる。

取引成立だ。こうしたやりとりはちょっとスリリングで達成感と満足感が伴う。やみつ

きになりそう。


シルクロード隊商宿で昼食。昔隊商たちが宿泊したという昔のままの石造りの建物であ

る。壁も床も石むきだしのまま。仕切りも窓もなく床の高低差で部屋割りがしてある。

高い天井からぶらさがったアンティークな輪になったローソク立ての下、タイムスリッ

プしたような部屋で食事をする不思議。


カッパドキア近くになるにつれてますます不毛の地となる。18時にホテルに到着。明

るいので夕方とは思えない。19時45分、8階の部屋から日の入りがよく見える。遠

くの岩山に太陽が赤から次第にピンクに変わって4分弱かけてゆっくり沈んだ。残照の

茜色の雲をいつまでも眺めていたら、ああ、ここは異国の地なのだという思いが胸に迫

った。


次の日はギョレメ野外博物館へいく。岩肌をくりぬいてキリストの修道士が隠れ生活し

た場所である。明るい外から急に洞窟に入ると真っ暗だが、目がなれると壁に宗教画が

描かれてあった。また岩肌に無数の穴をくりぬいてある場所があり、鳩の巣にしてそこ

から出る糞を畑の肥料にしたという。


思いがけない体験ができた。きのこ岩の中で暮らす普通の家庭を見学することができた

のだ。えっ、こんな所で生活を?と思うような細くてもろけそうなキノコ岩の中だ。1

階には6畳ぐらいの部屋が2つあり、小さなベッドに生まれたての赤ちゃんが眠ってい

た。2階はキッチンと12畳ぐらいの居間。その居間の中に入れてもらえた。日本のよ

うに床の生活で畳の替わりに何枚も絨毯が敷いてある。電気もテレビもあれば、冬の寒

さのためにはストーブもある。くりぬいた小さな窓が二つ。乾燥した空気が通り抜けて

気持ちがいい。皆が座ってお茶をふるまわれた頃、9歳と7歳という女の子と男の子が

帰ってきた。ちょうど今日が学校の終了式だという。通信簿を真っ先に父親に見せて恥

ずかしそうにしていた。岩肌の壁には写真やら壁掛けやらが飾られ温かい家庭のぬくも

りが感じられる。誰かが「これなら住んでもいいや」とつぶやくと、みんなが笑いなが

ら頷いた。


その日早めに着いたホテルの部屋でW杯サッカー日本対クロアチア戦を見る。


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