今週の雑感(昔のもありの)              文はさぬがゆたか


ソノ世界的イラストレータ・サニーはココアメンバーですが、
ふだんのアート作業を栃木でやっていて、そこからの田舎だよりです。
感動もあり、そーでもないのもあり、で、謙虚にタイトルは雑感のまま。




『 たかがサッカーな話 』

よくぞこんな失敬なことを言ってしまったものだと思う。

「悪いけど帰ってくれよ!もう始まるからさ〜!」


4年ぶりのワールドカップ初戦が今夜に始まるってのに、毎度お馴染みの

友達は焦る気配さえなく、中古オーディオショップで探し買ってきたという

プリメインアンプの凄さを言い続けている。

「ちょっとさ、どんな音か聴きたくない?繋いでみるべさ!」

「400ワットの出力ってのは凄くないか?聴きたいべ?」

てな話が続いたわけで、億劫だったけれどさっさとオーディラックを

引きずりだした。せっかくWCのTV鑑賞用立体的音響にセットアップしたのに

また配線のし直しってこと。「そんなの次ぎでいいべさ!次ぎ聴こうや」

って言えば「サッカー?どうせ日本は負けるよ!そんなもんさ」

まったくサッカーに興味がない彼を今さら問うつもりもないんだけど、

ならせめて、邪魔をするんでないよ!!と思いの言葉だった。

「う〜ん、やっぱこのスピーカーじゃ相性が悪いか?どうよ?」

もはや、どうでも良かった。そんなことよりあと数十分で君が代が流れる。



4年前の日韓開催の時は、浦和レッズの本拠地でおおいに騒ぎ応援を楽し

んだ。見知らぬ人同士歓喜でテーブルを揺すりあったし、草サッカーを眺め

ながらも鍛えた自分流の観戦術も楽しんだ。

それにくらべ4年たったドイツ大会の今夜。誰とどこでという予定もなくただ

仕事でうんともすんとも動けない。なら、どっぷりビールと旨い肴を用意し

テレビで大観戦と決めたところだ。そんな最中に彼が訪ねて来たわけで、気の毒

このうえない。だってだって、ここんところズ〜ッとかつての録画ビデオを

観続けてきていたんだから。アメリカ五輪でブラジルに勝った試合はもちろん、

俊足岡野のワールドカップ初参戦が決まったゴールで、踊り走り岡田監督の

ジャージ姿にまた涙したりした。フランス大会の中田の金髪姿も今となると

なんとなくカッコ悪い気もするけど、ま、いいじゃないか。

映画「小林サッカー」も観て景気付けもし用意万端だったのだからカンニンだ。


そんなこんなで慌てて録画をセットし、テーブルにも冷や奴にダイコンたっぷりの

焼き魚と乾きモノ少々、きりりと冷えたグラスに淡麗を並べ背筋を伸ばした。

前哨戦のドイツとの親善試合のように戦ってくれれば、間違いない日本代表だから

すごく大丈夫!日本時間午後の10時にキックオフし、前半に中村俊介のフリーキック

が前に出ていたキーパーの頭上をゆるりと越し1点を取った。

オーストラリアの何度ものシュートをキーパー川口のファインセーブで助かりつつ

前半が終わる。恐いのでヒーヒー騒がずどうにかどうにか1点死守していければって

いう流れだった。異常な暑さのピッチは選手をバテバテにさせていたのか、後半小野

が投入されてから怪しくなった。もう細かいことは書きたくないし、みんな知ってい

る通り。一発もらって「なら引き分けってことで」で済むはずが、土壇場で地獄を観た。

なんと3点も入れられて笛が鳴った。

・・・・・・・・・・・・・     ・・  ・・・  ・・・・・・・ ・ ・

食べ残しの冷や奴がくずれたまま。生ぬるいビールの泡がポツリだ。

脱力感で腰が納まらないまま深夜の庭先に出てみた。

そんな深夜に携帯のメールが届く。

「いやあやっぱ負けちゃったねえ〜。先ほどのアンプはいい音してますよ!

音楽はやっぱ楽しいっすね!」

カチコン状態なのに、帰ってもらった友人からのメールだった。


明くる朝、歯を磨きながら庭先に出てみたら、なんでか缶ビールの空き缶が散らかっ

ている。ツツジの植え込みに空き缶が刺さっている。一体何があったのか。

負けて悔しくてどうしようもない自分が何をしたのか。自問自答ってこと、これって?

一人フーリガンのサッカー応援も危ないんだなきっと。


それから数日が過ぎ、痛かった歯の治療にも行きどうにか頭が戻ってきた。今度は

クロアチア戦だけれど、それまでの過ごし方はこんなんだ。

在庫の山になっている8ミリビデオの録画の中から、なんと息子の小学生時代の

サッカー試合を延々と観てみた。もちろん撮っているのは自分なんだけれど、その際

入っている音声が笑える。「へい!行け行け!そうだそうだ!蹴れ!蹴っちゃい!」的

簡潔明瞭な声がまさしく若い頃の自分で、なんとも情けないやら笑えるものだった。

全国少年サッカー大会っていう県予選で最初は勝ったものの、その次ぎの試合は

前半の硬さが取れないままボコスカ得点され涙の惨敗ビデオだった。そりゃ少年の

サッカーで、まるで気まぐれつむじ風みたいに全員がドド〜ッと走り廻るのは

しょうがない。それでも負けて戻ったチームの面々を見てなんだか今頃幸せを感じた。

その息子はオーストラリア戦をさいたま2002で応援し、その夜は帰って来なかった。

今度またブラジル戦もさいたま2002で応援するらしい。そんなわけで、うっかり結果

が出るまで死んでも死に切れない面白さのワールドカップだと思う。



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