●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回は、患者も極めれば自分で治療促進、って話。



ハリ治療

長年腰痛に悩んでいる。東に良い整形外科があると聞けば、走り、西にペインクリニッ

クがあると聞けば飛んでいった。けれどもさっぱりよくならない。見るに見かねてハリ

治療を勧めてくれた人がいた。場所は横浜中華街、中国人による中国流鍼治療院である。

鍼師は歳のころ40前後の働き盛り、長い髪をひとつに束ね、いかにもその道一筋とい

った感じだった。

すぐに(これは本場もんだ、効きそう)と思った。

ところが、ところがである。針を刺すときの痛いのなんのって、飛び上がってしまった。

終わったときは緊張で肩は凝るわ、痛みは残るわ、で5〜6回行って止めてしまった。

聞くところによると、中国針は太くて長くそれだけ深く入れるのだそうだ。(中国人は

日本人より我慢強いのだろうか、それとも私が意気地がないのだろうか)

今度は近所の日本人による細い日本針を使う鍼灸院へ挑戦した。ちょっとチクッとする

だけでそれほど痛くはない。これなら続けられそうだ。その代わり置き針なので、うつ

ぶせに寝て背中・腰・足に針をさしたまま5分ぐらいじっとしていなければならない。ま

ったく見た通りのはりねずみ状態である。

(かわいそうな私…眠れるはりねずみ美女よ…王子様はいつきてくれる…その前にこの

状態で地震がきたらどうしよう〜)

トホホと情けないことばかり考えていたのだが、回数を重ねるうちに、いかん、自分を

甘やかしてはいかん、と気がついた。私は置き針の間、心の中で古館伊知郎のように実

況中継をすることにした。

(いま、針が盛んに刺激を与えております。血のめぐりがどんどんよくなってきました。

おっと、痛みを一つやっつけました!)

こんな具合である。するとどうだろう、良くなっていくような気がするではないか。

われながらいじましい自己暗示。

まったく、語るも涙、聞くも涙のハリ治療談義でございます。


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