4/10の日記          文は田島薫



ヘボ将棋の一日

日曜は、またお茶の稽古の前に寄っていた精神的悩み徹底継続出版者と紅茶飲んで

るところに玄関のベルが鳴り、将棋対戦希望友人Sがとうとうやって来てしまった。

で、出版社が出て行った後、いそいそと彼は盤と駒を広げ出した。


Sはどっちかっていうと知識人に属す学問的職業に就いてる男なんだけど、こうい

ったどうでもいいようなゲームの勝ち負けに異常にこだわる負けず嫌いで、どっち

もヘボなんだし、一回ぐらいやって、おー、負けちゃったか、でおしまいにすれば

いいと思うんだけど、負ければ、すぐにあーだこーだへ理屈を言ったりして、必ず

もう一番ってことになり、勝てば勝ったで、気分いいからもう一番って、もういい

って言ってもキリがない。


ま、始まれば私の方もなんとか勝とう、って考えるもんで、おもしろい、ってば、

おもしろいんだけど、定石だって知らない上、記憶力の悪さもあり、流れの先を読

むのも面倒だし、将棋には向いてない、って感じてるのにくらべ、敵の方は、どう

も昔からへたの横好きタイプらしく定石も知ってて、すぐ王様のまわりを金銀で固

めちゃったりして、展開が退屈なせいで、今一楽しみきれないのだ。


で、私の方は皮を切らせて肉を断つ、ってつもりもあり、負けたっていいから展開

もおもしろく、って考えて、責めることばっかりやってるもんで、負ける時の、負

けっぷりが派手で、駒を全部取られて、王様と歩と金一個になっちゃったりしても、

ふざけてるもんで、敵が調子乗っちゃう、って悪循環。


夕方になるから、もう帰るのかな、って思ってると、そんな気配がないもんで、あ、

そーか、将棋でけっこうナンセンスな時間満喫したから、じっくり話でもしたいん

だろうな、って思って、ゆっくりしてっていいぞ、って言って、私のスケジュール

に合わせて、風呂入れたり、なんか食わしたりして、さて、って落ち着いたら、お

いおい、またうれしそうに将棋の駒を並べ出した。


で、またへぼ将棋再開して、つきあってるうちに、とうとう11時過ぎになったんで、

さすがの私も、もう一番、って言いたそうな男に、もう帰れ、って言った。


戻る