●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回は、結論は読者にマルナゲで、ってお話。



うーむ

11月12日付夕刊の新聞の囲み記事に目が止まった。

電車を運転中の30代の運転士が3歳の長男を4分間運転室に入れたとして懲戒解雇

された。この措置に対して「解雇は厳しすぎる」と抗議が殺到しているというもの

だ。

運転士はその日勤務は途中の駅までで、その後家族で買い物に出かけるため、妻が

夫の運転する電車の1両目先頭に乗った。走行中に長男が運転室の扉を叩いたので、

運転士が注意しようと駅に停車したとき扉を開けたところ、長男が中に入りしゃが

みこんで泣き出した。出発時刻になったため、仕方なく長男を同乗させたまま隣駅

まで行き、到着後、妻に引き渡したという。

うーむ、あの無機質な電車の中で信じられないような家庭的な光景が繰り広げられ

たのである。同情に値するが、しかしそのとき妻はどうしていたのだろうか。

寄せられた抗議は「処分は仕方がないが厳しすぎる」「長男が将来自分のせいで父

が解雇されたことを知ったらショックを受ける」などだそうだ。

でも企業としての立場もある。人の命を預かる鉄道会社にとってこの行為を見逃す

わけにはいかない。事故があってからでは遅いし、安全への姿勢が疑われる。福知

山線事故の記憶も生々しいし、あとあとのために厳罰に処するしかないのだろう。

そこで思い出すことがある。

前にミニコミ誌制作に関わり、その企画会議が行われたときのこと。若い女性ライ

ターが二人の子を連れて参加したのである。しつけが行き届いていると見えて6歳

のお姉ちゃんはお絵かきをし、バギーに乗っている坊やはビスケットなどをしゃぶ

っておとなしくしている。風邪をひいているらしく、母親が時々鼻を拭いていた。

うーむ、この場合も限りなくアットホームな雰囲気だ。

昔、林真理子とアグネス・チャンの職場への子連れ論争が週刊誌を賑わしたことが

ある。アグネスのように子供は社会の宝、みんなで育てようといわれても、現実的

には無理がありそう。なにしろ私は会議中子供が気になり気が散ってならなかった。

仕事は片手間ではできない。やる気と集中力だ。

子連れの女性に子供はどこかに預けてきてください、なんていったら、「世間は子

育て中の女には辛く、子育て支援なんて名ばかりで、女が働くとき敵はやっぱり女

でした」といわれかねない。

うーむ、やっぱり私は女の敵にはなりたくない。できれば働く女性を応援し、しか

も少子化も食い止めたい。

しかし仕事と子守り(子育てではない)は両立しない。

運転士も女性ライターも仕事に忠実だがたまたま職場に家庭を持ち込んでしまった。

そこにどうしようもない状況ができあがる。それが結果的に好もしい状態ではなか

った。やっぱり、うーむ、なのである。
   


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