●新連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回はさびしい人々に勇気を与える彼女のこころ暖まるまとめ。



クリスマス・イヴ点景

今年はクリスマス・イヴをはさんだ3連休。イヴ・イヴを祝ってもよし、当日祝っても

よし、だから人出は分散すると予想していた。

24日、同人誌の合評会があり午後外出したら、意外にも乗り換えの渋谷駅はラッシュ並

みの混雑だった。会場である四ツ谷の喫茶店「ルノアール」に入ると1階の客はまばら

で、2階にあがるともっと閑散。3階にあがりながらあの大勢の人々のゆくえは?と考え

た。きっとこんな地味な喫茶店なんかくるわけないよね。

3階のミーティング室で3時間過ごし、帰り際店内を見回すと、客はどういう筋なのか目

立つ着流し姿のおじいさんと一人コーヒーを前にケイタイを見つめる若者だけだった。

変な取り合わせ。

会が終わると近くの居酒屋へ流れた。ここでも客はほとんどいなかった。やっぱりクリ

スマスにこんな場末の居酒屋はお呼びじゃないんだろうな。

鍋を囲んでほかほかと温まり、酒の弱いMさんがもう酔っぱらって叫んだ。

「さあみんな15歳になろう! これは命令だ。」

いいおじさんおばさんの集まりである。いじましい願望なのかもしれない。

「よし、なろう、なろう。じゃ、15歳のときは何をしていた?」

Kさんがすぐ同調した。

「クリスマスなんて断然なかった。そのぶん正月がくるのをわくわく待っていた。あの

頃の方がよかったなあ。今じゃ、マスコミや周りがクリスマスを囃し立ててさ、どこで

誰と過ごすかとかさ、過ごす相手のいない人は負け犬にされちゃうしさ。これって迷惑

なんだよな。でもさ、実際俺は寂しいよ」

バツイチ独身のSさんはすっかり愚痴っぽくなってしまった。もう一人の独身のおばさ

んが雄雄しく言った。

「私、ちっとも寂しくないわ。この日もふつうに過ごせるわ。普通じゃないのはMさん

の図々しさ」

「普通じゃないのはSさんの女々しさ」と誰か。

「えー、俺女々しいかあ?」

Sさんはまたがっくり。

そうだ! 何があっても普通が一番。

家族をはみ出しても、人はどこかでそれぞれつながって生きてゆく。

血のつながらない家族、すれ違いの家族、どんな家族であれ、家族は家族。家族はどん

どん外に広がればいい。家族をはみ出した人とつながっていくのはいいことだ。その結

論に達した私は鍋に残っていた肉を女々しいSさんの皿に入れてやった。


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