8/16の日記          文は田島薫



青春映画物語

正月と盆休みには茨城の両親のところで1泊だけすることにしていて、

先週末、いつものようにみやげは読書家のおやじのために読み終わった本を

ボストンバッグに2〜30册だけ詰め込んで出かけた。

いつもはそれにおふくろ用に干ししいたけも入れるんだけど、先日、戻して

古くなったそれでおやじが食あたりしたと聞いたので今回はやめたのだ。

(ま、どーでもいい話だけど)


私の両親のところへは、JRからローカル線に乗り換えて行く。

たんぼの景色が一時間ぐらい続く単線の旅はなかなか風情があって気に入って

いるんだけど、やっとそれに気づいたらしい作家によって小説が書かれ、いつも

私が下車する駅が題名になり、最近映画化され深田恭子主演でヒットした。

見たクボセンセーによるとたんぼのど田舎風景とギャルファッションの

アンバランスさもおもしろくていい映画だったそうだ。


そのローカル線の先頭に乗って、手すりに寄りかかり新聞を読んだ。

いつも客は始発駅のデパートの買い物帰りか、サンダルをはいた若者たちとか、

学生服とか、少し離れたところに住んでいる若夫婦が両親の家へ帰るなど、

すぐに地元の人々だとわかるのだけど、そばに帽子をかぶってリュックを背負い、

目が少しきょろきょろしている若い女性がいた。


これは多分例の映画見て出かけてきた娘だろう、と決めつけた。

でも、そう思ったら批判より、なんだか彼女に少し好意を感じた。

彼女がどう景色を見てるんだろうと想像しながら、緑の中をぐんぐん進むぼろ電車

を味わっていたら、自分の中で作った勝手な映画の映像がダブって来て、一種の

芸術的感動をした。


彼女はやっぱり私と同じ駅に下りて駅の出口でしばらく立ち止まっていた後、

私が少し目を離してるすきに消えていた。


迎えに来たおやじの車で走って行くと、たんぼの広がるとこまでけっこうある一本

道を大きなリュックの彼女が歩いて行く後姿が見えた。

疲れるけど、泥臭い青春のいい思い出を作れよな、って心の中で言った。


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