連載●文はクボユーシロー
小旅行日記6
(都電)
今年の梅雨は良い。雨が多からず少なからず。太陽も顔を出すような出さないような。
適度な鬱陶しさがモワーッと全身に付き纏う。近年では数少ない正統派の梅雨、こんな
ちゃんとした梅雨をたっぷり堪能できるなんて日本人に生まれて本当によかった (少し
オーバーかな)。
梅雨空の下、中国人留学生たちと一緒に王子から早稲田まで都電に乗った。彼らに『別
な東京の顔を見せてやろう』と言うおせっかいな親切心で。
以前は都内縦横に走っていた都電も、自動車の邪魔になると言う理由で今ではこの荒川
線だけになっている。だから、荒川線は大半が都電専用路線を走っていて、自動車と混
走している部分は王子から飛鳥山の坂を上る所と面影橋周辺だけのような気がする。
学生の頃、親類のおばさんがたった一人で東尾久三丁目に住んでいた。大きな家だった
ので1年間そこに下宿し、都電で東尾久三丁目から王子や池袋四丁目まで出て江古田の大
学に通った。学生の時以来、久しぶりに乗った都電は車体が少しモダンになっていた。
車窓の風景で遠くに高層ビルが見える以外は、昔とそんなに変わってないような感じだっ
た。ごちゃごちゃした商店街の裏側を覗いたり、民家の窓辺に植えてある紫陽花の花を
擦るようにして都電は走った。西安から来ていた留学生の一人はそんな下町的な風景が
「とても懐かしい感じがする。」と言っていた。 おわり