連載●文はクボユーシロー

貞熊遺伝研究所8


(天の使い)

ここだけの話、僕は天の使いである__(大丈夫です) 高校二年の時に後

天性心臓弁膜症(子供の頃の病気の後遺症)の手術をした。(話は少し専門

的になるが我慢して読むこと)肋骨を広げて心臓を取り出す、もちろん人

工心肺のバイパスは使う。心臓にメスを入れ中にある弁膜を少し切り

取ったのである。人はみんな心室と心房の間に血流の逆流を防ぐため弁

がある、僕の場合普通の人より狭くなっているリング状の弁を少し切り

取って広くする手術をした。

人は運動したり坂を昇った時に血液の流れは急になり、多量になる。そ

の時この弁の穴が狭いと、血がスムーズに流れず逆流する。僕は手術

前、走ったりするとすぐ顔が青くなり額に冷や汗がにじみ、動悸が激し

くなり呼吸が苦しくなったのである。

心臓手術成功の確率は五割だと言われ、親父は病院の用意した誓約書(死

んでも文句を言わない)に判をついた。同室(4床)の他の心臓病患者はだ

いたい同じぐらいの歳だった。大学生は手術に成功し、同い年の高校生

は失敗した。もう一人(中学生)は手術前の検査の結果、症状が進みすぎ

て手術ができず紫色の唇のまま福井に帰った。

術中は全身麻酔、その時(たぶんその時だと思う)に天の声を聞いた(いわ

ゆる人間社会にある音ではなく、意図を伝える信号のようなもの)。『お

前はこの世に要らない人間で本来ならここで終わる』『天の使いをする

ならお前を生かす』__。僕が微かに首を立てに振った瞬間、家族や看護

婦さん達が僕の顔を覗いていて高熱と激しい痛みに悶えていた。

お陰様であれから約40年、坂や階段を上っても息切れしたり唇が紫色に

ならない。その時以来、時たま天と交信をしているので次回紹介する。 

つづく


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