連載●文はクボユーシロー
小旅行日記 12
(東浦和その2)
東浦和駅の周囲は高台で駅舎もその台地の上にある。駅の南方向と東方向は
緩やかな下り坂で、その先は広い低地帯が広がる。そのあたりは今でこそ畑
や住宅地になっているがつい最近まで『見沼田んぼ』と言われる大湿地帯で
あった。『見沼田んぼ』は今でも若干残っているが、僕が子供の頃見た幻想
的で広大な湖のような風景はもう無い。東浦和駅の北方向2キロぐらいの所
に『氷川女体神社』と言うなまめかしい名前の神社がある。その社は高台に
建っていて、その前方には広々とした『見沼田んぼ』が広がっているのである。
社の前の長い石段を降りると50メートルぐらい参道のようになっている。しかし、
その先には直径10メートルぐらいの円形の広場があるだけで行き止まりになって
いると言う不思議な場所である。
大昔、『見沼田んぼ』は東京湾とつながる広い『うみ』だったと言う。つまり
氷川女体神社は『うみ』に突き出た場所に立ち、行きかう船の人々が安全を祈
願する場所でもあったらしい。円形の広場では祭事が行われたと言う。
ここでこの氷川女体神社について少し書く。この神社の中の古びた額に、
なんと『武蔵一ノ宮』と書かれているのである (高校生の頃、実際にその額を
見てすごーく驚いた記憶がある) 。『武蔵一ノ宮』と言えば『大宮の氷川様』
のはずであるがコレは一体全体どうした事か。この氷川女体神社も『延喜式』
に載ってるくらいの古い神社だから『大宮』と『一ノ宮』争いをしても良いの
ではと素人は考えるが、ところがぎっちょんなのである。昔からの言伝えによ
ると、なんとここの神様は『大宮の氷川様』の『彼女』なんだと。 おわり