新連載●文はクボユーシロー

ユーシロさんの旅はまたずれ 2


(新潟その1)

50ccバイクで新潟まで行った。20年ぐらい前の三郷団地に住んでい頃、

日ごろ自転車代わりに使っていた古いバイクがあった。ある日何となく

これで遠くまで行ってみたいと思った。バイクの旅は初めてで若干の不

安もあったが、夏休みの早朝トコトコと出かけた。ちゃんとした計画は

無かったが、古道や旧道だけを走ってみようと考えた。まず浦和を通っ

ている旧中仙道に出て北に向かった。大宮、上尾、熊谷、本庄この古い

道は国道17号と付いたり離れたりしていた。群馬県に入り旧宿場町の安

中は旧道沿いに古びた昔ながらの家々が傾いたり、壁が落ちたり、屋根

が草ボーボーだったりしながらがんばって残っていた。

夕方になって目の前に碓氷峠がデンと現れ、今日中に軽井沢に着きたい

という焦りがあった。群馬県最後の宿場坂本の手前は旧中仙道と国道は

重なっていた。ダンプが排気ガスをガーガー出しながら通り過ぎ、その

横を小さいバイクがヨロヨロと走った。しばらく行くと突然左側の視界

が開け、アウトラインを金色に染めた妙義の山々が連なり、思わず

オーッと言わせてくれた。その時、山々に気をとられていた私は進行方

向に舗装の切れた部分があるのに気付かなかった。道の左端が左右約2

メートル、長さ約10メートルの範囲でいきなり未舗装になっていて舗装

部との段差が5センチはあろうか。(私は美しい妙義山の風景と5センチ

の段差というきちんとセットされた罠にはまってしまった。)バイクは

ハンドルを取られ3塁ベースに滑り込む走者のようにスローモーション

で横にスライドしながら土ぼこりを舞い上げガードレールで止った。長

袖シャツが赤くにじんだ、右腕内側の柔らかいとこがおろし金で擦った

ようになってて痛かった。バイクは無傷だったが、傷を診てもらおうと

国道の下の集落に行った。ちょうど映画トトロのお母さんが入院してい

たサナトリュウムのような白塗り木造平屋の建物に妙義町立診療所と言

う看板が出ていた。「先生はもう帰ったのよー、あした病院でちゃんと

診てもらってね。」と言いながら年配の看護婦さんが消毒と包帯をして

くれた。(つづく)



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