1/3のねこさん 文は田島薫
元旦のねこさん
新年元日の夕方、家人と2人で繁華街へ向かうあまりひとけのない住宅街の広い通りの鋪
道を歩いてると、薄暗い道の向こう側からねこさんの鳴き声がしたんで、そっちを見ると、
体の上3分の2が黒いねこさんがこっちを向いて立ち止まってる。われわれもちょっと立ち
止まってねこさん見て、お、とか、よ、とかあいまいにつぶやいてると、ねこさん、われ
にかえったようにふいに前見て歩き出し、数メートル先の家のフェンスの下をのぞきこん
でから頭を突っ込んでる風で、こっちの方はもう見向きもしないつもりのよう。
きょうはなんだかいつもと違ってここら全部静かだね〜、ごはんくれるおじさんやおばさ
んちも留守みたいだし、ど〜しちゃったんだろ〜な〜、あたりをずっと探して歩いてたん
だけどどこにもいないから、けっこー遠くに出かけちゃって帰るの遅いのかもな〜、なん
だか腹へってきちゃってあせるな〜、はやく帰って来い来い、おじさんおばさん、つって
歩いてっと、あ、あっちから帰って来たー、よかったー、おじさんおばさん、はやくごは
ん、ん、あれ?ちがうおじさんとおばさんなの?なんだ、ちがったかー、今のはただ声だ
す練習しただけですよー、あんたたちをひとちがいしたんじゃありませんよー、ってこと
で、じゃ、家で待ってっか、で、ここ、いつもはいんの大変なんだよな〜。