12/22のねこさん 文は田島薫
うまちゃんさびしがる
土曜の午後、外でめずらしくねこさんの何か訴えるようななき声がするので、ベラン
ダから下をのぞいてみると、となりのフェンスのわきを歩くうまちゃんがいた。
うまちゃん、さかんにフェンスのそばから自分ちの中へ向かってアピールしてるよう
だったんだけど、きょうはうまちゃんちの2階のバレエ教室の練習日なんで、うまち
ゃんの飼い主である奥さんは先生の仕事でそっちへ行ってて、かまってもらえないん
だろう。
うまちゃんなきながらフェンスに飛び上がると、またそこからそばのすだれのかかっ
た暗い小さな窓に向かってしばらくないてから、後ろ足を残して前足だけ窓の枠へ投
げかけて、身体を長く伸ばして、後ろ足でフェンスをけり、暗い窓の中へ入った。
なんだ、窓開いてたのか、って初めて気がついた。多分そこはいつものうまちゃんの
出入り口なんだろうけど、きょうは外も寒いし、家ん中へ入る時に、奥さんに、おか
えんなさ〜いみゃ〜ちゃん(注:うまちゃんの本名、以前、みゃ〜ちゃんのことを、
本名にゃ〜ちゃん、って書いちゃったことがあったけど、気にしないでください)、
って言って欲しかったんだろう。
窓の中の暗闇に入っても、うまちゃんのなき声はしばらく続いていた。
今帰ったんですよ〜、帰ったんですよ〜、だれもいませんか〜、お〜い、今ぼくはた
だいま、ひとりぼっちなんですよ〜、お〜い、って言ってる。
しばらくすると、みゃ〜ちゃん、って奥さんの声がかすかに聞こえ、うまちゃんの声
はピタリとやんだ。