3/10ののらねこ         文は田島薫



きょうは気持ちのいい天気で、ゆっくり出勤すると、ドア前の

エサ皿はやっぱり空で汚れがひからびていた。

ねこたちの姿はどこにも見えない。


天気にうながされ朝はやく来て待ってたんだけど、事務所の中の

クボセンセイがいつまでたってもエサを出す気配がないので、

あきらめて帰っちゃったのかも知れない。


エサと水を出して、ひっこんで、窓から時々顔を出して、覗いてみる

けど、なかなか誰も戻って来ない。


しばらくして、下の方を探してお客さんの呼び込みをしてみようかと、

ドアを押しての外へ出ようとした時、足元に今エサを食べていたくろとらが

びっくりした顔をした後、あわてて階段を下りて行った。


後ろから、おおい、と呼んでみるが振り返らない。

共有スペースのベランダ端へ行って、下を見ると、道路のまん中をゆっくり

歩いて行く彼が見えたので、また声をかけると、今度は振り返えったので、

戻っておいでと、手招きしてみる。

しばらくこっちをにらんでいたが、ふいと、向こうを向いて、向かいの

家と家の狭いすき間を入って行く。見てると、また途中で振り返ったので、

また手招きする。すると、また向こうを向いて歩いて行く。

そして、また振り返る、また手招きする。

ずーと向こうまで行って、今度は振り向かず、そのまま行き止まりを

右に曲がって行った。


戻る