●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、新鮮な発見をしたようです。



シリーズ 住めば都 2

慈雲寺


新しい町に住んだならば、まずは探検散歩である。

町内地図を手に入れ、めぼしい場所にマルをつける。

とりあえず行ってみたいと思ったのは『慈雲寺』。なんと雅でやさしさ溢れる

名だろう、と思った。きっと古刹に違いない。

古くから町民に愛され、周囲に大木を従えて、大きな屋根の本堂は凛とした佇

まいで…なんて想像がふくらむ。

大通りから見当をつけた路地を折れて、緩やかな坂を昇る。

この街はとにかく坂が多い。坂というのは歩くのにはきついけれど、辿り着く

と何があるかわからないワクワク感がある。

とはいっても駅に近い住宅地なので、狭い道を挟んでちまちまとした家やアパ

ートが立ち並び、ゆとりのない空間に成り果てているのだが。

そのまま緩やかな坂を行くと、やがて迷うことなく慈雲寺が現れた。

”立派過ぎる“

これが第一印象だった。

入口の樹木はきちんと刈り込まれ、日蓮宗慈雲寺と彫られている立派な石の門。

それほど広くない敷地の奥の本堂は建てたばかりのように新しい。カーブする

屋根は緑に輝き、赤い回廊の柱に施された彫刻も立派だし鮮やかである。想像

よりもずっと新しくキンキラキンだった。

”ちょっと、この街にしては贅沢過ぎない?”

なんだか入りにくかったが、ちょうど庭の手入れをしていた人がいたので断っ

て裏に回ってみる。

裏庭はさほど広くなく片隅に細い急な階段があった。ためらわず上ると、山と

いってよいほど小高くなっていた。

そして驚いた!

着いた先はお墓がびっしり。またさらに上があって、またまたお墓が! つま

りお寺の裏山は全部墓地になっていたのだった。

てっぺんまで登って振り返ると、ああ、こんなに高いのかと感動してしまった。

眼下には住宅街が広がり、遠くには横浜ランドマークタワーがそびえ、絶景な

のである。

慈雲寺はこの地の地形を上手に生かし、たくさんの檀家を抱えたありがたいお

寺なのだった。


  山登り忽然と広がる雲の峰


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