●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、不満のち満足、の日々のようです。



シリーズ 住めば都 1

空をみる愉しみ


娘一家と暮らそうと今まで住んでいた古い家を壊し、新築中である。

そこで私は今、隣町で仮住まいをしている。

マンションの3階で2Kの狭い部屋。 

東側にベランダがあり、朝日が昇るといち早く明るくなる。

この時期、日の出は早く徐々に明るくなると、遮光カーテンがあっても目が覚

めてしまうのだ。

ああ、もっと寝ていたいのに…と思っても、夏の陽射しは強く、部屋はどんど

ん熱せられて、暑いし、明るいしで、もう、寝てなんかいられない。

もともと朝型ではないので、思いっきり不機嫌な寝起きとなる。

のろのろと簡単な朝食を用意し、狭い洋間に運んでぼそぼそと食べる。

ガラス戸いっぱいの朝日の眩しさに思わず顔をあげると、いきなり空なのだ。

遮るものもなく、広々と青い空が広がっている。

地べたの生活のときは、窓辺にいくか、二階に上がって、木や家の軒先の隙間

から空を見上げていたものだった。こんなに身近に広い空を感じられるなんて

…これは新鮮な驚きだった。

それからというもの、私は頻繁に空を見る。

今日はどんな空の色でどんな雲を見せてくれるのだろうか…

時間によって刻々と変わる空の色と雲の形。

太陽が南に移動すると、あれほど明るかったベランダは陰り、一層空は見やす

く鮮明になる。雲は南風に乗って移動したり形を変えたりして、私の想像力を

膨らませる。

さらに西に傾くと、ベランダ側の空は夕日を反射するだけになり主役交代。私

は西側の玄関ドアを開け、壮大な夕焼けを確かめる。

空は自分の気持ちを反映する。今の心の在りようを確かめたり、昔の出来事を

思い出したり、ただ無心になったりと、コロナ禍で外出もままならぬ今の閉塞

的で孤独な時間をなぐさめてくれるのだった。


  何処から来何処へ行くのか鰯雲


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