映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、名作を久しぶりに観て再発見があったようです。




『タクシードライバー』


先週、たまたまだけど二人の監督が『タクシードライバー』に影響を受けたと言って

いるのを聞いた。すぐ頭に浮かんだのは「?」。お二人ともマーティン・スコセッシ

の影響をあまり感じさせない作品ばかり作っているように思えたからだ。


主人公トラヴィスは、元海兵隊員。現在はNYのタクシードライバーとして生計を立

てている。ベトナム戦争(多分)でのPTSDを抱え、日夜ニューヨークで起こっている

犯罪や廃頽的な情景を見て嫌気がさしている。そんな中見つけた”掃きだめの鶴”が、

大統領候補の議員秘書ベッツィ―だった。猛烈アタックを仕掛けるが、見下されて撃

沈。自尊心が打ち砕かれる。次にティーンエイジャーが売春させられているのを目撃

し、彼女を救おうと命がけで救出行動に出るのだが…。


スコセッシはシチリア系イタリア移民の子として、NYリトルイタリーの腐敗した社

会に生まれ育った。熱心なカトリック信者で、一時は祭司を目指して神学校で学んだ

こともあると言う。その事もあってか、数多い作品群の中でも、歪んだ社会を正し困

難にあえぐ人々を救済しようとする人物を描いたものが多い。しかし、悉く失敗に終

わってしまうのだ。本作では、一見成功したかと思わせるが、エンディングで一瞬釘

を刺し、影を落とすところがうまい。

今回何十年ぶりかで観て一番驚いたのは、NY市の撮り方だった。夜、雨上がりのミ

ラーと化した道路、ネオンや車のライトを捉える撮影が見事なのだ。華やかさと闇が

共存する社会が浮き上がってくる。思わずカメラを持って、台風迫る中、新宿に出か

けようかと思った。やめたけど(笑)。さすがカンヌでパルム・ドールに輝いただけあ

って、素晴らしい作品だった。


1976年/114分/カラー/アメリカ
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ポール・シュレイダー
撮影 マイケル・チャップマン
音楽 バーナード・ハーマン
出演 バート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ジョディ・フォスター、ハーベイ・カイテル





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