映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、実在した瞽女の話、その映像に感じ入ったようです。




【映画『瞽女 GOZE』】


むかし全国各地に存在した盲目の旅芸人、瞽女。彼女たちの存在を知っている人が、

今どれくらいいるだろうか。

盲目に生まれた、若しくは幼少時に失明した女性は、生きていくために三味線を弾

き瞽女唄と呼ばれる独特の唄を披露して旅をしながら生計を立てる。山間の閉ざさ

れた農村を渡り歩き、厳しい自然環境の中、ひたすら働く農民たちに娯楽と各地の

情報を提供するのが彼女らの役目だ。幼少期から親方に付き、人様に聴かせる力強

い声を得るために、それはそれは厳しい修行に耐えなければならない。そんな瞽女

も第二次大戦後、急激に数が減り、本作の主人公・小林ハルが実在した最後の瞽女

となった。

物語はハルの幼少期から成人期にかけての過酷な人生を描く。


ハルは幼少期に父を亡くし、母は親亡き後もしっかりと生きてゆけるようにと、鬼

と化してハルを躾ける。あまりにも厳しい躾けに、ハルは母の親心を理解できずに

育った。7才で性悪な親方に預けられ巡業の旅に出ると、身の危険もいじめも波の

様に押し寄せてくる。次に付いた親方は優しく、ハルは母のように慕うのだった。

そしていよいよハルが親方になる番がやって来る。


まず、小林ハルという人物を描こうとした監督の、17年にも及ぶ準備に脱帽する。

これはドキュメンタリー作品ではない。なぜ劇映画にしたのかとの質問に対する答

えは「自分の思うハルさんを描きたかったから」だった。その思いは映画からしっ

かり伝わってきた。作りはオーソドックスで、奇をてらう演出ではないのがかえっ

て良かった。出演者たちがみんなしっかり農民に見え、方言にも細心の工夫がなさ

れていたのも素晴らしい。当時の方言をまともにやったら字幕が必要になったこと

だろう。最初、青年期のハルを演じた吉本実憂さんが綺麗すぎやしないかと思った

が、そのために拷問とも言える仕打ちを受ける設定があって納得。そして何より驚

いたのは、吉本さんが唄う瞽女唄だった。情感込もる繊細かつ力強い瞽女唄。芝居

としての唄に衝撃を受けた。この女優さん、タダモノではない。


映画の最後に小林ハルさんの実際の唄が流れ余韻に浸ったが、なんとこれが96才の

時のものとは!ハルさんは、何と言うか…バケモノだ。


日本の音楽文化の歴史を、瞽女さんたちが担ってきた時期があったのだ。忘れずに

いよう。


2019年/ 109分/日本
監督 瀧澤正治
脚本 加藤阿礼、椎名勲、瀧澤正治
撮影 佐々木秀夫、伊集守忠
音楽 まついえつこ
出演 吉本実憂、川北のん、中島ひろ子、小林綾子、綿引勝彦、渡辺美佐子
語り部 奈良岡朋子


4/6 尾形充洸さんよりコメント
かつて斎藤眞一画伯の一連の瞽女作品から触発受けて、ひびきみか という舞踏家で
映像化はできないかと企画したことありましたが、もろもろで挫折したことをおもえば、この作品の何かを是非
感じたい。いつもの福原さんのアンテナには脱帽です!


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