●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、好きだった劇作家との交流を懐かしみます。



懐かしの『木冬社』


15日、日曜日の新聞が清水邦夫さんが亡くなったことを報じていた。

清水邦夫さんは演劇企画グループの『木冬社』を立ち上げ、演出をしており、ファン

だった私には忘れられない人である。

清水邦夫さんにお会いしたきっかけは、友人が清水さんと同郷で、ある小さな会合で

紹介されたことだった。

そのとき、私以外は皆新潟県高田の出身で、冬は雪深くその難儀さは半端ではなかっ

たという苦労話で盛り上がったのだが、清水さんは柔和なお顔で微笑みをたたえ、口

数は少なかったように思う。

それをきっかけに演劇の好きな私は、木冬社の公演に足を運ぶようになった。

その後の1980年代、木冬社の公演にまるで追っかけのように何度も通った。

『弟よ』『真情あふるる軽薄さ』『狂人なおもて往生をとぐ』『タンゴ・冬の終わり

に』などなど。

タイトルからもわかるようにアングラ演劇の流れを汲むものである。

東上線の”おおやま”に稽古場があって、そこでの公演は狭いぶん、とても身近で観

られ、看板女優であり清水さんの奥さんでもある松本典子さんの息遣いまでが感じら

れ、その迫力に感動したものだった。

松本典子さんは良く通る声で張りがあり、凛とした演技であった。そのうち追っかけ

のような私を認めてくれて、次の公演について書いた私信をくれたりしてささやかな

交流があったのが懐かしい。

清水さんを支えていた、その松本典子さんは2014年に亡くなり、また今回の清水

さんの訃報があって悲しい。


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