映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、現代社会のヤクザ以上の暴力を考えたようです。




【ヤクザと家族】


前回書いた『すばらしき世界』と時を同じくして同じヤクザを描いた『ヤクザと家族』

が公開されている。こちらは『新聞記者』の藤井道人監督作品だ。西川監督は広島繋が

り、藤井監督は大学の後輩に当たる人で、共通点を見出しては応援したくなるのが、良

くも悪くも私の癖だ。


両監督はどちらも自身で脚本を書いているが、『すばらしき世界』にはめずらしく原作

があり、『ヤクザと家族』は、いつもの様にオリジナル。


覚せい剤で父親を亡くし、同時に行き場を失くしてしまったケン坊は、悪友たちと荒ん

だ日々を過ごしていた。ある事件で大物ヤクザを救ったことから、親分と親子の契りを

交わし、極道の世界に足を踏み入れる。ヤクザの抗争で投獄され、14年もの間ムショ暮

らしをするが、その間に世の中はすっかり変わってしまった。社会復帰しようにも、暴

対法、5年ルールなどに阻まれ…。


全体が三部構成となっており、父を亡くし荒くれる1999年、ヤクザと親子の契りを交わ

し、疑似家族を持つ2005年、刑期を終え、社会復帰を目指す2019年と、一人のヤクザ

の20年を追っていくのだが、時代の流れは容赦ない。ヤクザの暴力をあざ笑うかの如く

社会の壁が肥大化していく。またしても行き場を失った主人公。ヤクザになるしかなか

った人間の人権は?足を洗ったヤクザの人権は?更にヤクザの家族の人権は?もちろん

暴力は厳罰をもって贖われるべきものではあるが、ヤクザの武器がとてもわかり易い目

に見えた暴力であるだけで、現代社会には掴みどころなく得体のしれない暴力が満ち溢

れている。この状況に見ざる聞かざる言わざるの姿勢であって良いのかと問われている

ようだ。「お前はどんな態度を取るのか」と、鋭い視線を投げかけられた『新聞記者』

の印象が蘇った。


『ヤクザと家族』
2021年/ 136分/日本
監督 藤井道人
脚本 藤井道人
撮影 今村圭佑
音楽 岩城太郎
出演 綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人


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