映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史が、なぜドキュメンタリー作品にかかわりだしたのか。




【MINAMATA】


1年前のベルリン国際映画祭で、特別招待作品として『MINAMATA』が上映された。言

わずと知れた水俣病の水俣だ。主人公は、水俣市に3年間暮らしながら、水俣病患者たち

の生活、苦しみを写真に収め世界に知らしめたユージン・スミス。演じるのは、自身写真

家でもあり、ユージン・スミスを敬愛するジョニーデップだ。劇中使われた写真の中には、

ジョニー本人が撮ったものもあるらしい。監督はアンドリュー・レビタス、音楽は坂本龍

一が担当している。2月に公開されるらしいから、今から楽しみで仕方ない。


私が今まで関わってきた映画は、社会派と言われるものや硬派なドキュメンタリー作品が

多かった。20年前にビデオカメラを持ってカンボジアやタイへ行き、現・近代史の闇に触

れたのがきっかけだったように思う。以来、社会派ドラマ的な映画の仕事は何であれ有難

く受けている。中でも『抗い 記録作家 林えいだい』の上映に関わることができたのは、

思考停止状態の私の脳ミソにとって、大きなカンフル剤となった。隠れた歴史やジャーナ

リズムの問題に、いかに無頓着であったか。振武寮の存在など、えいだいさんを通して初

めて知った。特攻隊として出撃し、死なずに戻ってきた少年兵を、再び死ぬために教育す

る施設だ。そんなもの教育でも何でもなく、拷問でしかない。また、炭坑節は知っていた

けど、炭鉱労働者の生活や搾取の構造など何も知らなかった。エネルギー問題、国家権力

の横暴、ジャーナリズムの危機……えいだいさんを通してどれだけ多くを学んだことか。

そのえいだいさんが初めて出版したのが写真記録「これが公害だ(新評論刊)」。ドキュメ

ンタリー映画『抗い 記録作家 林えいだい』に関わらなければ、そして林えいだいとい

う孤高の記録作家に出会わなければ、ユージン・スミスの映画に関心が向くことも無かっ

たかもしれない。


『MINAMATA』
2021年/ 115分/アメリカ
監督 アンドリュー・レヴィタス
脚本 デヴィッド・ケスラー
撮影 ブノワ・ドゥローム
音楽 坂本龍一
出演 ジョニー・デップ、真田広之、浅野忠信


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