●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、散歩の効用を再確認したようです。
シリーズ散歩日和 7
心は外へ
私の父は歩くのが嫌いだった。
目的もなくブラブラ歩く、散歩という発想はなかったようだ。
必要があって出かけるときも、なるべく歩かないで済むように自転車などをよ
く使っていた。
唯一運動に匹敵する趣味といえば庭いじりだった。
そんなに広い庭などなかったから、ただ石を置いたり、庭木の枝振りをよくし
たり、しゃがんで草を抜いたり、ちゃんとした運動には程遠い。
当然、その報いはやってきて、晩年はどこも悪くないのにほとんど寝たきりに
なっていた。
でも父は幸せそうだった。読書や短歌づくりや書道やラジオ・テレビ視聴など
歩けなくても一向に不自由しない趣味ばかりだったから。
遺伝なのだろうか、実は私の趣味も似たようなもので、家に閉じこもっていて
も一向に退屈しない。
だが、今”自粛”という不自由さを味わうことになって気がついた。
父のように幸せ気分というわけにはいかず、気が晴れないのだ。
自分の好みのものを取り入れて暇をやり過ごせるのは、いつでも外へ出られる
という自由さがあってのこと。ひとたび、お前にはこれしかないのだ、と限定
されると複雑な反応を起してしまう。
心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのだ、と気がついた。
外に出て、自然と向き合い、世の中の刺激を受けると、心がイキイキとする。
そして再び内向きの世界に入ることができるのである。
界隈を歩きて春を探しけり