●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの心も自由に浮遊のようです。



湯気への想い


朝食後にガラス越しの朝日を浴びながら熱いお茶を飲む。

湯呑みから白い湯気が穏やかに立ち上がっていく。

湯気は、まるで煙のようにさまざまな形をつくりあげては消えていく。

思わずその形の面白さにじっと見つめた。

湯気はすっと上に立ち昇るとさまざまな形をつくった。くねったり、渦巻いたり、

揺れたと思ったらすぐ消え、薄く、または濃く、そして儚い。

しばらく見てて飽きないほどのとても複雑な形を見せていた。

ふと、日本画の速水御舟の『炎舞』を思い出した。揺らぐ赤い炎の中に蛾が何匹

か飛んでいる絵だ。何か妖しさを感じ、心にずしんと響く絵である。

揺らぐ炎と湯気は形は似ているが非なるもの。

朝日の中の湯気はあくまでも優しく穏やかで、静かである。

今の私の境遇には湯気が望ましい。

コロナ禍の中の不安、忍び寄る老い、会いたい人に気軽に会えない不自由、この

2年で境遇は劇的に変わった。

だからこそ、複雑な形をするのだけれど、穏やかで温かい湯気が愛おしい。


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