●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、意外に楽しかったようです。



シリーズ散歩日和3

ジジ友


私が散歩で横丁を曲がると、目の前に犬を連れた老人が歩いていた。どうも絵画教室で

一緒だったTさんらしい。声をかけるとやっぱりそうだった。

「お元気そうですね」

「う〜ん。そうでもないよ。腰は痛いし、まだらボケだし。コロナでどこも行かれない

ので、家にゴロゴロしていると、ウチのバアさんがイヤな顔するんでね、こうして毎日

犬の散歩さ」

「なるべく外へ出た方が体にはいいんですって。犬を連れての散歩なら様になりますね。

私なんかただ手ぶらで歩くだけ」

と笑うと、ジロジロ私を見て、

「マスクに帽子に手袋か…押し込み強盗だな。ま、女だから空き巣狙いか、ハハハ」

だって。

(失礼しちゃうわ、人を泥棒みたいに言って!)心の中で憤慨する私。

そこで、

「そのかわり、この寒い中、Tさんが出たきり老人ならば、風邪を引かないようにしな

いといけませんね。出たきりと寝たきりは一字違いで大違いですからね」

と一矢を報いると、

「出たきり老人かあ、いいなあ、理想だなあ」

ときた。

まったく、皮肉の通じないデリカシーのかけらもない人!

私はTさんのワンちゃんの頭を撫でてから、「お先に」といってすたすたと追い越した。

でもその後、なんだかほんわかと気持ちが温かい。

久し振りの人との出会いで、顔を見ながらの会話。

目元を見ながら笑い顔を見ながら、何の飾らない言葉のやりとりがじんわりと温かいの

だった。


  飾りなき言葉飛び交い冬温し




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