映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、映画制作での編集の力を再認識しました。




【編集のマジック】


小学生を主人公にした映画の企画があり、参考になる映画をいろいろ観ている。時代設

定は戦後。ぱっと思いつくのは篠田正浩監督の『少年時代』だ。篠田作品と言えば『瀬

戸内少年野球団』、『写楽』、『沈黙』、『鑓の権三』などいろいろあるが、個人的に

は『少年時代』がお気に入り。必ずしも一番の代表作ではないのに、一本選べと言われ

ればこれを選ぶ。なぜか。自分でもよくわからなかったが、時代劇研究家の春日太一さ

んの解説を聞いて、その理由がわかった。編集を市川崑監督作品の常連・長田千鶴子さ

んがやっているからだ。私は市川監督作品が好きで…と言うより、昔観て気に入った作

品の監督を調べると市川崑率が高かった。テンポよくグイグイ引き込まれ、編集のリズ

ムに乗れる。春日さんによれば、他の篠田作品にない、他監督の手法が取り入れられて

いるとのこと。本作は長田さんの手が加わったことにより、市川崑作品の様相を呈して

いると言うことだ。だからか! と大いに納得した。


映画史や作品を編集の面から観てみるのも面白い。古くは編集と言う概念が誕生した時、

トリック映画も誕生した。少しちがうかな。撮影中にカメラを止めたことでトリック場

面ができ、編集という概念が誕生した、と言うべきか。兎に角そこにいたはずの人物が

突然奇術でも施したように消えたのだ。当時の人たちは驚いただろうなぁ。

モンタージュ論によると、同じ画を使っても、次に組み合わせる画が違えば生じる意味

も違ってくる。同じ素材でも、順番を変えることで違ったストーリーになる。フェード

・アウトとインを組み合わせれば時間経過の表現に。ドンパチやっているところへ一瞬

白味を入れれば閃光に…。面白い。


今の時代、あらゆる機能を備えた編集ソフトのお蔭で何でもできる。でも、やたら機能

を使いまくった映画より、ここぞという時にこれだという機能を使ったものの方がいい。

もっとも、いろいろ使いまくりながらもそう感じさせないのが編集者の腕なのかもしれ

ないが…。


『少年時代』
1990年/117分/カラー/日本
監督/篠田正浩
脚本/山田太一
撮影/鈴木達夫
音楽/池辺晉一郎
編集/長田千鶴子
出演/ 藤田哲也、堀岡裕二、岩下志麻、細川俊之
やってもまだまだ話のネタは尽きない。


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