映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、作品から格差社会への問題提起を感じ取りました。




【パブリック】


コロナ禍、AI、高齢化の影響など、これからの社会をふと考える。もし働けなくなって

しまったら、もし全てを失くしてしまったら、この社会に私の居場所はあるのだろうか

…。憲法を無視する政権下では、基本的人権なんて意味をなさないし…。なんて暗く落

ち込んでいたタイミングで公開されたのが『パブリック 図書館の奇跡』だった。


舞台は米オハイオ州シンシナティの公立図書館。死の寒波から身を守るために、ホーム

レスたちが図書館に逃げ込みフロアを占拠する。対するは、ホームレス追い出し作戦を

企むパワハラ検事。市長選を控え、票取りを狙ってのことだった。エミリオ・エステベ

ス演じる訳アリの図書館員は、どうも気が弱い。オロオロと対応するうちに、主犯者で

あるかの如く報道されてしまったからさあ大変!この問題の決着は…?


アメリカの図書館は(美術館もそうだが)、日本のそれとは機能やミッションが結構違う。

劇中に出てくるセリフ「民主主義の最後の砦」が表すように、ただ本を読むだけでなく、

あらゆる人に開かれた教育の場であり、研究の場であり、情報を得る場。更に安心して

いられる場なのだ。人種、性別、年齢、前科も精神病歴も関係ない。


そこに集まる人々には多様性がある。大勢の塊ではなく、それぞれがホームレスになっ

た理由を持つ。ともすれば、自分の偏見に満ちた常識(ホームレス=教養とは無関係、自

立能力のない人など)に嵌めてしまいそうな人々に、本作は意外性を加味し、深い人生

の背景を与えている。だから似たような人物が多くても決して飽きないし、それどころ

か人物を通して民主主義の行方を考えさせられる。中には職を失ったベトナム帰還兵も

いて、胸が締め付けられた。


テーマは重いが、物語の展開はエンターテイメントとして楽しめる。前半に貼られた伏

線が終盤で回収される時、「こうきたか!」と唸った。大いに笑いながら、究極の防衛

は無防備だと考えさせるあたりは、流石だ。どんな結末かは問題ではない。原題『The

Public』が示すように、パブリックとは何かを今一度考えてみようということなのだ。

ぜひ続編を作ってほしい。


スーパーアイドルとして活躍したメジャーの世界とは一線を画し、インディーズ系の映

画作りをしてきたエミリオ・エステベスから目が離せなくなってしまった。


※因みにスタインベックの『怒りの葡萄』は、図書館の権利宣言が生まれるきっかけとなった小説です。


『パブリック 図書館の奇跡』
2020年/119分/カラー/アメリカ
監督/エミリオ・エステベス
脚本/エミリオ・エステベス
撮影/フアン・ミゲル・アスピロス
音楽/タイラー・ベイツ
出演/ エミリオ・エステベス、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレータ―、
ジェフリー・ライト、ジェナ・マローン


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