映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、異民族同士による自然体の交流を楽しんだようです。




【迷子の警察音楽隊】


「かつてエジプトからイスラエルに警察音楽隊が来た。大したことじゃなかった。」

こんな言葉で始まる本作は、ひとことで言うなら「イスラエルで、エジプトの音楽

隊が地元の人に助けてもらう」という極めて単純な内容。本当に大したことじゃな

かった。


エジプトと言えばアラブ。イスラエルと言えばユダヤ。中東戦争や宗教の違いなど、

大したことだらけの歴史を持つ両国だ。しかし、だからこそ敢えて大した物語にし

なかったのだろう。劇中、歴史や政治の話は全く出てこないけど、民間レベルの不

器用でユーモラスな交流を描くことで、却って平和の種蒔きを感じさせる。好感の

持てる忘れがたい一本だ。


エジプトの警察音楽隊がイスラエルの空港に到着するが、なぜか迎えが来ず、プラ

イドがユニフォームを着た様なカタブツ団長は、自力で目的地へ行こうとする。と

ころが英語が通じない。仕方なく楽団の若いチャラ男にバスの手配を任せたところ、

一文字違いの田舎町に着いてしまったからさあ大変! そして笑える。食事に入った

食堂のオーナーは面倒見のいい姉御肌で団員らに食事と宿を手配してやる。それぞ

れの場所で異文化を体験する団員たちも、どこかしら可笑しい。お世話になる側も

お世話する側も、み〜んな不器用で、素のまんまの行動が笑わせてくれるのだ。気

まずい問題も、"乗り越える"と言うほど大袈裟ではなく、日常レベルでやり過ごし

ていく。これが何とも微笑ましくて楽しい。


普遍的な物語ではあるが、野暮な深読みをすると、やはりアラブ・エジプトvsユダ

ヤ・イスラエルの壁を取り払おうとしたのだろう。楽団のユニフォームはイスラエ

ル国旗を思わせるブルーだし、食堂オーナーの黒髪と赤いドレスはエジプト国旗を

思わせる。因みに監督はイスラエル人だが、エジプト文化に親しんで育ったらしい。

オマー・シャリフの名前が出てきたときには私まで嬉しくなってしまった。


第20回東京国際映画祭でグランプリを受賞した、隠れた名作だ。


2007年/イスラエル、仏、米/カラー/87分
監督/脚本 : エラン・コリリン
撮影 :シャイ・ゴールドマン
音楽 : ハビブ・シェハーデ・ハンナ
出演:サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッツ、サーレフ・バクリ





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