映画だ〜い好き 文は福原まゆみ
尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、注目してる若手監督の新作をチェックしたようです。
長いお別れ
中野量太監督の前作『湯を沸かすほどの熱い愛』が素晴らしかったため、次回作は
果たしてこれを超えられるのだろうかと気になっていた。
『長いお別れ』というタイトルから察するに、きっと年老いた親が死ぬのだろう。
急性の病ではなく慢性病もしくは老衰かなと思った。
わりと簡単に予測できる内容の映画をどんな風に感動させてくれるのか、期待と不
安が入り混じる中、劇場に足を運んだ。
内容は、認知症となった父親の面倒を、妻と娘二人で見ながら、7年かけてさよな
らした家族の物語。中野監督作品らしい心の琴線に触れる場面がいくつも用意され
ている。泣かせるシーンはあるが、ジメジメを避けて笑わせてくれたりする。重い
テーマを明るく描き、悪人は出てこない。尖った映画人からは、安易なヒューマニ
ズムとして酷評されかねないところだけど、脚本がしっかり練られていて、構成、
セリフ、が素晴らしく、小道具の使い方も面白かった。そして何より一人一人に感
情移入できたのは、やはりキャストに依るところが大きいだろう。私にとって山崎
努はクセが強く、個性派俳優として認識していたが、今回の流石の演技に認識を大
きく変えられた。少なくとも今まで観てきた中では、山崎努の最高の演技だったよ
うに思う。記憶が遠のく時としっかり思い出せる時、繊細な表情やしぐさでそれが
伝わってくる。彼が言う「かえりたい」には2つの意味が込められていただろう。
「家に帰りたい」と「あの頃に返りたい」。こんなところに作者の創造性が仕込ん
であり、それを掘り出す観客とのコミュニケーションが成り立つのだ。『湯を沸か
すほどの熱い愛』より一歩先に進んだようで嬉しくなった。
『長いお別れ』
監督/脚本:中野量太
原作 : 中島京子
音楽 : 渡邉崇
出演 :山崎努、松原智恵子、蒼井優、竹内結子
2019/カラー/127分