●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの旦那さん、いい答を見つけたようです。



シリーズ 老いの賜物 その10

人の寿命


その昔、人は不老長寿が憧れだった。そのためならあらゆる努力をしてきた。

その結果、今や100才まで生きるのは夢ではない。

だが、その願いが叶ったいま、現実はどうだろうか。

老後資金、年齢と共に避けて通れない病気、そして当然起こる頭や動きの衰

えなど、どうケアして乗り切るのか、とまどうばかり。

最後には人の手を借りなければ生きられない厳しい現実を目の当たりにして

愕然とするのだ。

二人に一人はガンになるといわれている。

とうとう“長生きはリスク”だという人まで出てきた。

健康で楽しく長生きするのでなければ意味がない。

そのため、ある人は日々家の周りを5000歩の歩くことを課している。

ある人はボケ防止のためにクロスワードパズルを1時間解いている。

ある人は好きな肉をやめベジタリアンになった。

ある人はサプリメントに金をかけた。

こうなると、ただ危機感だけを抱えながら、まるで日々修行のように暮らし、

老いていくのである。

夫はそんなのごめんだ、自分で最後の日を決められたらいいのにと愚痴る。

そうすれば自分で準備をしてやり残したことはやりとげ、いつ死んでも悔い

はないのではないか、と。

だが、自分の最後の日を自分で決めることは不可能だ。尊厳死とか安楽死と

か、簡単にいうけど、そんな安易なことではない。

夫はガンとわかって早々と身仕舞いを始めた。

年賀状の交換を辞め、財産整理をし、背広服を捨てた。

なるべく身軽になって命を全うしたい、という。

そしてやっぱり最後まで生きることにする、人間は生きるために生まれたの

だから、と。

(今回で“老いの賜物シリーズ”終了)


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