映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
映画女史、名監督たちの意図もお見通しのようです。




映画の雨


いよいよ梅雨の季節がやって来た。雨を嫌う人もいるけれど、私は子どもの頃から雨好き

の晴れ女だった。半袖の上に着るレインコートの特別感と魔法の杖が開く様な傘の不思議。

傘に落ちてポツポツと音を立てる雨が大好きだった。

そんな子ども時代を思い出させてくれるシーンが『となりのトトロ』にある。夕暮れ時の

淋しいバス亭で、お父さんの帰りを待つさつきとメイ姉妹。ポツポツと雨が降り、トトロ

がさつきたちの隣にそっと現れる。不思議な世界へ誘われる珠玉の場面だ。大きなトトロ

がふわっとジャンプしてドシンと着地すると、まわりの木の葉から一斉に雨粒が落ちてく

る。ポツポツポツがザザザザザーになる瞬間。この瞬間が呼び起こすノスタルジーにやら

れてしまった。

ザザザーっと降ると言えば、なんと言っても『羅生門』をはじめとする黒澤作品だろう。

黒澤明という人は中途半端が嫌いらしく、黒澤映画の雨は、降れば土砂降り。だからこそ

雨が上がった時の爽快感が効果を持つ。

ヒッチコックの『レベッカ』は雨の使い方が凄すぎた。主人公の夫は大金持ちで、広大な

敷地の豪邸に住んでいる。どれだけ広大か。門をくぐって屋敷に着くまでの間に、なんと

天気が雨に変わるのだ! びしょ濡れになった身分違いの新婦は、ぞろーっと並んだ召使た

ちの前で、なんとも惨めな姿を晒す。この意地悪な演出はヒッチコックじゃなくて、アル

マ夫人(スゴ腕らしい)のアイデアではないだろうか。な〜んて事を思ったりした。

他にも雨と言って思い出すのは、オープニングで入り乱れる傘が美しすぎる『シェルブー

ルの雨傘』。国際支援をいくら頑張っても、自然の力には敵わない事を思い知らされた、

ブラック・コメディ『ロープ-戦場の生命線』。酸性雨が降る『ブレードランナー』等々。

そして私のNo.1雨映画はと言えば、ジーン・ケリーが超ご機嫌に雨の中を踊るMGMの

『雨に唄えば』。これを観れば雨の日に唄って踊りたくなること請け合いだ。


『雨に唄えば』
1953年/アメリカ/103分/カラー
監督:スタンリー・ドーネン
脚本 : アドルフ・グリーン
出演 : ジーン・ケリー/デビー・レイノルズ/ドナルド・オコナ―


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