●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
実力があれば慌てる必要はない、って教訓のようです。


残り物には福がある その2


A氏は大手の商社マンである。

一流大学卒、一流企業勤務、ハンサムとあれば結婚相手としては引く手あまたなのに、

30才過ぎても独身であった。

いまでこそ晩婚や独身は珍しくはないが、昔は男性も30才過ぎれば大体結婚していた。

商社ならば海外も含め、出張や転勤が多く、出会いならいくらでもあるのに、だ。それ

にこの社は比較的社内結婚率も高く、同期に入った社員は次々と結婚していった。

A氏は、焦る風もなく悠々とマイペースであった。

独身主義なのか? NO.

理想が高いのか? NO

強いて言えばおっとりとしたマイペースな性格の上に、熟慮型だった。

失敗はしたくないので、まず相手を冷静にじっくり観察して自分との相性が良い人を選

びたいという。

ところで、この会社は恒例行事として、クリスマス近くになると社内ダンスパーティー

が催される。

A氏も毎年参加した。

例によって彼は、すぐ踊らずテーブルで飲み物を飲みながら、まず雰囲気に浸り、じっ

くり踊る相手を探すのである。

そのうち、やはり踊らず“壁の花”に徹している独りの女性を見つけた。

女性が誰からもダンスの申し込みを受けずに、取り残されるのはかなり自信を失うもの

なのだが、彼女は悠然と楽しそうにパーティーに溶け込んでいた。それに彼女の印象は

若々しいというよりも落ち着いた成熟さがあった。

早速彼はダンスを申し込み、ためらう彼女と強引に踊った。

それをきっかけにお付き合いが始まり、1年後には遂にゴールインしたのだった。

結婚式で幸せそうな彼に、みんなが心から「おめでとう」祝福をした。

「いい人つかまえたね」「お似合いだよ」の同僚のやっかみ半分のひやかしに、彼は新

婦には聞こえないように小さい声で、

「残りものには福がある」と言ってニヤリとしたものだ。


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