映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
グレン・クローズの説得力について。




天才作家の妻 -40年目の真実-


米アカデミー賞の候補が発表され、主演女優賞に『天才作家の妻‐40年目の真実-』の

グレン・クローズが選ばれている。最優秀主演女優賞を取るか?レディ・ガガの評判も

いいし、今回の楽しみの一つだ。


グレン・クローズはあまり好きな女優ではなかったけれど、2011年の『アルバート氏の

人生』を観た時、好き嫌いを通り越して、凄い女優だと強い衝撃を受けた。この映画は

第24回東京国際映画祭で大絶賛され、最優秀女優賞を受賞している。男性として生きる

しかなかった女性の哀しい人生を描いており、必死で男性になろうとする女性、自分が

女性なのか男性なのかアイデンティティが揺らぐ人間、女性の服を着て戸惑う男性とし

ての女性…。なんと複雑な人生を演じている事か!


あれからもう8年。『天才作家の妻』のグレン・クローズも凄かった。物語はノーベル

文学賞を受賞する天才作家と、作家を40年間支えてきた妻の話。映画は早い段階で作家

の妻がゴーストライターである事を観客に示し、そこから彼女の心理描写が様々な人生

のフェーズに絡めて描き出されていく。愛情、希望、葛藤、諦念、嫉妬、怒り、憐憫…。

主人公の複雑に揺れる感情を、強い説得力を持って演じている。

ふと思ったのだけど、これ程の説得力を持って女性の心情を表現できるのは、そしてそ

れに感情移入させられるのは、酷い言い方だけどグレン・クローズが決して美人ではな

い事が一つの要因かもしれない。どんな感情が出てきてもおかしくない、哀しく、怖く、

優しく、滑稽な顔なのだ。これも才能のうちなのかな。

因みに彼女の学生時代を演じているのは、アニー・スタークと言って、グレン・クロー

ズの実の娘さんらしい。こちらは母より美人だった。


『天才作家の妻 -40年目の真実-』
監督 : ビヨルン・ルンゲ
脚本 : ジェーン・アンダーソン
出演 : グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイタ―
2019年/101分/カラー


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