●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、今週もイメージ遊びに夢中のようです。



漢字の凄さ その


最近の傾向として漢字は敬遠され、カタカナ・ひらがな・省略当用漢字表記が多くなっ

たが、前回のココ通に俳句の世界はなるべく漢字で書くのだと書いた。

いつもならひらがなで書く物事・現象も漢字を書くと、さらに意味が広がり謎も深まる

ことがある。

例えば、こけし。

語源は“子消し”から来るそうな。なんだかドキッとするではないか。

昔、東北地方で貧しい子沢山の家にさらに子が生まれると、とても養っていけないとな

ると身ごもった時点で堕胎したそうで、それを“子消し”と呼び、供養のため、あの人

形のこけしがうまれたのだという。

そして、“魂消る”

これは見ての通り魂が消えるほどビックリすることだが、この漢字を見てしまうとあま

りの大袈裟な表現に、気軽に「たまげた〜」なんていえなくなってしまいそう。

それから、“ゆだん”

油を断つと書いて“油断”。

以前、堺屋太一が『油断』と言う石油が輸入されなくなったらどうなるかという小説を

書いたほど、現代社会なら石油は産業に切っても切れないし、国力にも影響することな

ので理解できる。

だが、昔は油がないとなぜいけないのか、よくわからない。灯りとしての役割だろうか。

そして“醍醐味”。

それは一体どんな味?

たまたま、最近読んだ『香りの歳時記』(諸江辰男著)に載っていた。

“醍醐”とは昔中国で作られていた乳製品で、簡単にいえば、牛乳を発酵と煮詰めるこ

とを繰り返し最後にできたものらしい。

どうやら醍醐はヨーグルトともチーズともバターとも違う、今は無き味だ。

酪農は7世紀ごろ中国から伝わったが、日本も中国も早々と乳を飲む習慣は廃れ、製品

は消滅した。

だが、醍醐味という言葉は立派に生きている。

モノの神髄を表す言葉としてあこがれの味である。


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