映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
心の奥に大事にしまってたせいか、とりこぼしてた大切な一本




夏の映画 青春篇


7月の初めに夏の映画をいくつか挙げた。ところが大切な一本を取りこぼしていること

に気付く。『フライ,ダディ,フライ』、高校生とおっさんの夏休みの物語だ。

友だちとカラオケに行った娘が、不良の高校生・石原に絡まれケガを負う。「遊んでい

たおまえが悪い」とおっさんが叱ると、傷ついた娘に拒絶され会ってもらえなくなった。

父親としてはこれはつらい。娘を信じてやれなかったおっさんは、娘との信頼関係を取

り戻すべく石原の高校に殴り込みに行く…が、行った高校が間違っていた(笑)。石原を

やっつけるどころか、そこにいた在日二世の高校生・スンシン(美しき岡田准一)にボコ

られてしまう。

弱すぎて話にならないおっさん堤真一。喧嘩シーンの良し悪しは殴られる側が要となる

が、流石は堤真一!弱っちいおっさんの殴られっぶりがうまい!情けなくて情けなくて、

喧嘩の仕方をスンシンに教わることにしたおっさんは、ひと夏会社を休み毎日ハードな

特訓をうける。この辺で挿入されるスンシンの勝利の舞があまりにも素晴らしくて忘れ

られない。鳥になって空を飛ぶように舞う。これは岡田准一自身が振り付けをしたとの

ことだけど、格闘技だけではなくこんな分野にも才能を発揮するとは、なんて凄い人な

のだろう。最新作『散り椿』では殺陣も絶賛されているらしい。

スンシンは、必死でついてくるおっさんにいつしか頑なな心を開くようになり、自身の

出自や幼少時の辛い経験などを語る。彼の語るセリフがいちいち名言だ。脚本の金城一

紀、この人も豊かな才能を持っているなぁ。

訓練も終盤に差しかかったところで、一か所いかにもハリボテのシーンが出てくる。木

の上でスンシンが自分の事を語るのだけど、そのシーンを観てあるアメリカ映画を思い

出した。『ペーパームーン』だ。親子のふりをして詐欺を働く男と少女の話で、挿入歌

の「ペーパームーン」は誰もが知る名曲。♪紙の月でも信じていれば見せかけのもので

はなくなるという歌詞だ。夏の特訓を通して疑似親子の様になっていった二人が、作り

ものの様な木の上で、作り物の夕焼けをバックに本物の親子に見える。素晴らしいシー

ンだった。

いよいよ石原と対決する日、おっさんは勝てるだろうか。スンシンが教えたのは「勝ち

方じゃない、闘い方だ」。 

飛べ、おっさん、飛べ!! おばちゃんも飛ぶぞ!!


『フライ,ダディ,フライ』
2005年/カラー/121分
監督 成島出
原作・脚本 金城一紀
主題歌 Mr. Children 「ランニングハイ」
出演 岡田准一、堤真一、須藤元気

『ペーパー・ムーン』
1974年/モノクロ/103分/アメリカ
監督 ピーター・ボクダノビッチ
出演 ライアン・オニール、テイタム・オニール


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