映画だ〜い好き        文は福原まゆみ


尾形映画プロデューサーの友人が仕切る映画制作会社で働く映画好き女史が
エッセーを連載してくれてます。
名作ミュージカル映画の見どころ講座。



サウンド・オブ・ミュージック


とある集会から映画講座の依頼があった。お題はミュージカル。

ミュージカルと言えば、よく話題になるのがタモリのミュージカル嫌いだ。その理由

は「突然林の中から音楽が鳴り始めるのはおかしい」と言うことらしい。

これはきっと『サウンド・オブ・ミュージック』の冒頭のことだろう。まずはこの話

から始めることにした。


<あらすじ>

第二次世界大戦の足音忍び寄るオーストリア。厳格なトラップ大佐一家のもとへ、家

庭教師として修道女マリアが派遣される。

母を亡くし父親の愛情に飢える、やんちゃな7人の子供たち。マリアは彼らに音楽を

教え、トラップ家にとってなくてはならない存在になっていくのだが…。


よく観るとわかるのだけど、実は突然音楽が鳴り響いているのではない。


まず始めに、雪山に吹く冷たい風の音が鳴り、緑の山に映像が変わると、鳥の囀りが

聞こえてくる。そこに優しい風の様なヴァイオリンの震える音、小鳥の囀りの様なピ

ッコロの音色が重ねられる。

そして更にホルンが重なり、オーケストラ演奏となり…こうしてお膳立てが整ったと

ころで♪The hills are alive with the sound of music〜。結構計算されているのだ。


この映画、他にも優れた演出が沢山ある。

例えば歌っている時のドラマの進行だ。一般的に、ミュージカル・シーンの時間は物

語の進行を犠牲にしてしまう事がよくある。歌い始めてから終わるまでの間に変化が

ないのだ。

ところが本作のドレミの歌を例に挙げると、歌を禁止されていたがために全く歌えな

かった子どもたちが、一曲終わる頃にはみんな歌えるようになっている。

長い時間練習したであろうことは、きっちり映像の方で見せながら。これぞ映画だ。


嵐の夜の場面もそう。雷に怯える子どもたちが、家庭教師マリアとMy favorite things

を歌う間に恐れが消え、すっかりご機嫌になってはしゃぎまくる。同時にマリアとの

心の距離も縮まった。


他にも素晴らしい演出の数々。


一番唸ったシーンは、子どもたちが父親の婚約者を歓迎する広間でのシーンだ。婚約

者の前で歌を披露する子どもたち。マリアは広間の扉の外から中を覗いている。

歌が終わり、幼い末娘が婚約者にプレゼントする花を持っているのだけど、渡すタイ

ミングがわからない。そこで広間の外にいるマリアの方をチラッと見て、マリアの合

図で花を渡す。

子どもたちとの物理的な距離は父親の婚約者の方が近いのだけど、心の距離はマリア

の方が近いのだ。珠玉のシーンだったなぁ。



監督:ロバート・ワイズ

音楽:リチャード・ロジャース、オスカー・ハマースタインU世
出演:ジュリー・アンドリュース、クリストファー・プラマー
1965年公開
アメリカ映画


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